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前ページ次ページゼロの視線 第二話 ふむ、と弦之介は困っていた。 「召喚」と「契約」とやらで呼ばれた次の朝。 洗濯を終え(次期党首とはいえ自分の事は自分でやるべし、と教育された)主である少女を起こし 食事を終えた後屋根の上でまどろんでいると、妙に騒がしい。 見ると、るいず殿ではないか。 なにやら変わった色の髪の毛をした少年と向かい合っている。 喧嘩でもしているようだ。 やれやれ 放っておくわけにも行くまい。 「で、『ゼロのルイズ』 どうあってもボクと戦おうというのかい? キミは愚かと知ってはいたがここまで天井知らずの愚か値ストップ高とは思わなかったよ」 「あたしが愚かならあなたは阿呆よ。 大体フタマタ掛けしといて失敗の責任をメイドに押し付けるってどれだけ阿呆?」 「彼女が機転を利かせれば二人のレディの名誉は守れたんだよ。 それに貴族に全面的に従い時に生命すら投げ出すのは平民の義務、常識じゃないのかい。 それは偉大なる始祖ブリミルより授かった正当なる権利さ」 「じゃああたしは全ての貴族を敵に回して、その上で全ての女性の権利のためにアンタをドツくわ このあたしじゃない、ヴァリエール家でもない、『女性』を敵に回したこと後悔なさい」 なぜか片方の目に眼帯をしたマリコルヌが審判役を買って出た。 こういった「力ある者」同士の喧嘩はえてして「やりすぎて」しまう事が多いため審判役が立てられる。 両者とも「審判役」の言葉に逆らってはいけないとされているのだ。 「両者ともこの決闘の結果を始祖ブリミルの啓示とし、決して異議を差し挟んではならない。 お互いOK?それではみなさん!メイジファイト! レディ ゴゥ!」 その言葉に両者とも杖を構える。 先制攻撃は・・・・・・・・・・・ルイズ。 「ブツブツブツブツ・・・・・・ファイヤーボール!」 その言葉とともに壁の一部が爆発する。 「おいおい、かわったファイヤーボールだな」 「うわっ 危ねっ」 「残念ながら狙いが甘いとか色々問題があるようだね。いけっワルキューレ!」 その言葉とともに一体の銅製のゴーレムが立ち上がる。 装飾過剰な無手の『彼女』、しかし2メイルの巨体は十分危険であった。 「ボクはキミと違って大人だからね、手加減はしてあげるよ」 更なる呪文を唱え、見当違いの方向を爆破しながらルイズは叫ぶ。 「大人ってのはメイジだろーが平民だろーが自分の仕出かした事の責任きっちり取るモンよ。 自分より弱いモンに押し付けてる時点で大人ホザくな。 生えてもいないくせに」 「しっ失礼だなキミは!これから生えるんだ!」 「あらやだ、本当だったの?」 その言葉にその場は爆笑に包まれる。 「あくぁwせdrftgyふじこ! 心底無礼にして失礼だなルイズ!手足の一本くらいは覚悟したまえ!」 「出来るといいわね、つるつるギーシュ!」 その瞬間、男のデリケートな部分を侮辱した罰があたったのか、石に足を取られてルイズがバランスを崩す。 「くらうがいい!」 ワルキューレの豪腕が、地に突き刺さる。 しかし、土煙の収まった後には少女の姿は無かった。 「ふむ、使い魔の義務と権利としてここはわたしが引き受けようか」 ルイズを抱き抱えた弦之介の、いっそ幻想的とすら言えるオリエンタルな美しさに その場の一同は凍り付いていた。 そしてそれまで関心など欠片も無いかのごとく本に没頭していた眼鏡の少女が、本を閉じた。 「あら、タバサも彼狙い?」 「興味がある」 「あら珍しい、やっぱ異邦の美形だから?」 「違う。彼の風体はガリアに伝わる伝説の勇者に似ている」 「伝説の勇者?」 「これは秘密」 そう前置きしてタバサは友人に語る。 ガリアの一部に伝えられし英雄の物語。 七百年程前のガリア。 王と王妃が事故死し、残されたのは17才の王女のみ。 これを好機と時の大公が王家乗っ取りを画策する。 その時ふらりと現れたのは三人組の盗賊を自称する男たち。 ガリア王家に伝わる秘宝を盗み出さんとやってきた彼らは、もう一人の女性と組んで王女を守る。 秘宝を隠す謎を解き明かした彼らは、平民でありながら強大なメイジである大公と渡り合って これを倒したという。 この国に留まって自分を助けて欲しい、さもなくば自分を連れて行ってくれ 涙ながらにすがる王女を振り切ったリーダーは、後からやってきた茶色い服の男と合流し、何処とも無く去ったのだとか。 「で、秘宝って何だったの?」 「わからない。リーダーが『自分の懐には大き過ぎる』と今一度封印した」 その三人組の一人の服装が、あのゲンノスケの服に似ているのだとか。 「武器も、『1メイルに及ぶ剃刀』と称される細身の剣」 「なるほど、どの程度伝説に似てるのか。こりゃ目が離せないわね」 前ページ次ページゼロの視線
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「もっと太くて大きいやつはないの?」 大声で喚いているのはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 ここはトリステインの城下町にある武器屋で、集まっているのはいつものメンバーだ。 喚くルイズとからかうキュルケ、冷や汗をかきながら間に挟まれ困惑するリュウセイと、 それを宥めるマンソン、無関心なタバサ。 もはや見慣れた日常の光景である。 第三話 「出会い!ホリデイ・ホース・インテリジェンス」 ことのおこりは昨夜の一件から。 まだ召喚されて一週間も経ってないというのに ここのところのリュウセイはシエスタとか言うメイドとやたら親しくなり、 挙句昨夜は私の言いつけを忘れていつまでも部屋に戻らず、 何をしているのかと探してみれば食堂で二人、昔の思い出話に花を咲かせていた。 (…このままじゃいけない!) 何とかしてご主人様が一番であることを思い知らせようとルイズが考えた結果、 安易だがプレゼントを贈ることを閃いた。明日は休日なので丁度いい。 しかし何を送ればよいものか、これがなかなか思いつかない。 一人で考えるよりは、といつものようにマンソンに相談したところ、「剣はどうだ?」と思いもよらない提案を受けた。 「なぜ剣を?リュウセイは剣士でもないのに…」 まさか武器を送るなんて考えもしなかった。そんなものなくても彼は十分に強かったから。 マンソンは答える。 「リュウセイは確かに強いが、 あの『カブトボーグ』で戦っている姿を思い出してほしい、 実はあの時、リュウセイ自身は恐ろしく無防備なんだ。 身を守るために、武器が必要だと思うんだよ。」 ルイズは驚愕した。 そういえばそうだ、ボーグを離した後、リュウセイ自身は後ろで叫びながらつっ立っているだけ。 もし今までそれに気がつく相手がいたら…考えるだけで恐ろしいことになっていただろう。 さらにマンソンは続ける。 「それに、武器を与えることで主人を守るという使い魔としての本分を改めて思いださせることにもなる。 一石二鳥じゃないか?」 「素晴らしいわマンソン!さすがね!」 ルイズは満面の笑みを浮かべ、マンソンを褒め称えた。 ―そして翌日。 朝早くから準備をして、乗馬の体験が無いと言うリュウセイを後ろに乗せ馬を駆り、 長時間の道のりの末意気揚々と辿り着いた城下町の武器屋の中で… 「なんであんたまでここにいるのよ!」 「あーら、ダーリンがどこにいようと私にはお見通しなのよー?」 マンソンに無理やり居場所を聞き出し、タバサの風竜まで駆り出して先回りしていたキュルケに出会ったのだ。 後ろではマンソンが申し訳なさそうに苦笑している。 やがてリュウセイが間に巻き込まれ… 「いい加減にしやがれ!ギャーギャーうるせぇぞテメェら!」 とうとう店の隅に置かれていたそれが怒鳴り声をあげることになった。 「…え?」 間抜けな声を上げるルイズ達、そのまま声の主を探して黙り込み… 「よし、この剣にしようぜ!」 「…え?」 沈黙を最初に破ったのはリュウセイだった。 声の主すら見つけていない他の四人は、突然何を言い出すのかといいたげな表情だ。 それに気づいたリュウセイは言う。 「だーかーらー!そこの喋る剣にしようって言ってんの!」 「…え?」 次に間抜けな声を上げたのはその喋る剣。 「おじさん、あの剣いくら?」 「…え?」 値段を聞くリュウセイだったが当の店主すらぼうっとしている。 誰もいないところから怒鳴られ、売れると思ってなかった剣が売れ、買われると思ってなかった自分が買われ、 全員が全員、しばらくは「…え?」と呟くばかりであった。 何とか我に返り外を眺めるともうそれなりの時間である、学院に帰るころには真っ暗だ。 いまだ呆け続けている剣を慌てて引き抜き、会計を済ませ外へ飛び出す…が。 …薄暗い。 街から学院までは結構かかってしまう。 「手遅れだったみたいね…。」 呟くルイズ。 特に苦手というわけでもないが、真っ暗な道を長い時間走り続けるのはやはり不安になる。 表情からそれを感じたのか、マンソンが口を開いた。 「ルイズ、久しぶりに馬に乗りたい気分なんだが代わってくれないか? キミ達はタバサの風竜に乗って先に帰っていて欲しい。」 『代わってあげようか』ではなく『代わってくれないか』と言う辺り、ルイズの性格を熟知している。 さすがマンソンというべきか。 なんにせよルイズに断る理由はなく、多少申し訳なくもあったが先に帰ることになった。 マンソンと別れ学院に向かう、風竜に乗ったタバサとキュルケ、リュウセイとルイズ。 しばらく背に揺られ、ようやく辿り着いた学園で見たものは… 「な…!?何よあれ!!?」 宝物庫を攻撃する巨大な土人形。 「…フーケ。」 タバサが呟く。 「あれが…武器屋の言っていた…」 リュウセイは思い出していた、最近暴れまわっている盗賊、土くれのフーケの話を。 武器屋の親父に話を聞いた時は大して気にもしなかったが、実際会ってしまうとそうも言ってられない。 「行くぜ!」 「え?ちょ!ちょっとダーリン!?」 突然風竜の背中から飛び降りたリュウセイに、慌ててレビテーションをかけるキュルケ。 リュウセイは着地と同時に叫ぶ。 「フーケ!オレと勝負しろ!」 慌てて降りてきたルイズも魔法で攻撃するが、宝物庫の壁にひびが入っただけで大した効果はなさそうだ。 鬱陶しそうに土人形が拳を振り下ろしてきた。 ―迫る巨大な拳。 ―効かない魔法。 この窮地にリュウセイはどう立ち向かうのか! 負けるなリュウセイ!戦えリュウセイ! 「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 完 次回予告 ゴーレムなんてオレとトムキャットレッドビートルの敵じゃなかったぜ! しかし一瞬の隙を突かれて学院の宝、「破壊の杖」が盗まれてしまった。 目撃者のルイズ達は学院長室に集められることに。 かくして、怪盗フーケとの壮絶なバトルが幕を開ける! 次回カブトボーグ「盗まれた宝!フーケ・フーガ・フォレスト」 熱き闘志を、チャージ・イン!
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前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 放課後の図書室の奥まった誰からも見られないような場所で、ルイズはレポート作成に勤しんでいた。 「まったく。ミスタ・ギトー、こんな無茶な量を!」 こんな隅っこにルイズがいる理由はただ一つ。レイジングハートの機能を使っているからだ。他の生徒や先生には見せられない。 空間モニターを起動して、キーボードも展開。 その上で指を踊らせ、手書きでは不可能な速度でレポートを書いていく。 近頃は手元を見なくてもキーボードを的確に打てるようになったルイズであった。 大変便利な代物で手で書くよりもずっと早い。 「これがなかったら絶望的だったわ」 教室で爆発を起こしたルイズは、罰として風の魔法に関するレポートを明日までに提出することになった。 怒りまくるギトーが提示したその量はむちゃくちゃなもので、通常の数倍である。 しかも、できなかったら退学だ、とまで言ってきた。 実際には提出できなくても退学までは行かないだろうが、おそらくギトーの授業の成績は壊滅状態になる。 四系統魔法の実技の成績は最悪のルイズにとって、それは避けたいところである。 故にルイズの奮闘は続いていた。 (ルイズ、次の資料持ってきたよ) (じゃあ、そこに置いておいて) (わかったよ。重要な場所には付箋挟んでるから。じゃあ、次を探してくるね) ミッドチルダ式の検索魔法を駆使するユーノは的確に必要な本を持って来てくれる。 こういうときにユーノの能力は非常に便利だ。 時折、図書室からはこんな声が聞こえる。 「あ、ユーノくん。この本がいるの?」 「相変わらず熱心だね。君も」 フェレットが本を持って走り回るという光景は、いつの間にか図書館にある当たり前の物となっている。ルイズは気づいていないようだが。 そして、あとわずかで日も落ちると言うとき、 「できたー」 ついにレポートが完成した。 エア・ハンマー、カッタートルネード、風の遍在等々十数個の魔法に関するレポートは大作と言っていいだろう。 何か達成感すら感じる。 (後は印刷するだけだね。プリンターはどこ?) (え、ぷりんたぁ?) ユーノが意味不明の言葉を発する。 (うん。レイジングハートを提出するわけにはいかないでしょ?だから印刷しないといけないんだけど……あ) (何のことだかよくわからないけど、ぷりんたあはないわ。こういうときはどうするの?) すっかり失念していた。 せっかくのレポートも提出できなければ意味がない。 (だったらレポートを紙に書き写さないと!) (この量を全部?) 便利さに任せて書き上げたレポートはすごい量になっている。 (そう、なるけど……) (せっかくできたと思ったのにーー) (急がないと間に合わないよ) 今、図書館には視線を踊らせているルイズくらいしかいない。 その通路を司書が歩きながら叫ぶのが聞こえた。 「閉館でーす」 そういうわけでルイズは紙にレポートを書き写している。 (僕も手伝おうか?) と、ユーノは言ったが、提出するのは一人だけ。筆跡の違いが簡単にばれてしまうのでルイズは単独でがんばっていた。 「故に、この魔法は周囲の風のからの影響が強く……」 今やルイズは近寄りがたい雰囲気を漂わせている。 「ルイズ。お茶、持ってこようか?」 「今は黙ってて!」 話しかけても今はこんなふうだ。 静かにしてオーラ全開とでも言ったところだろうか。 おかげでユーノは恐れを成して、ベッド脇のテーブルの上で静かに待っている。 部屋の中にある音はルイズがペンを走らせる音だけ。 そんなふうになった頃、誰も手を触れないのに窓が突然に開いた。 フードをかぶった女性がレビテーションで空を飛び、部屋の中に入ってくる。 「勉強中ですか?」 女性がルイズに声をかけるが、今のルイズにとってはそれは雑音以外の何者でもない。 ものすごい勢いで血走った目を女性に向ける。 「だぁれぇ?」 ドラゴンでも裸足で逃げ出しそうな顔だ。 「あ、あの……ごめんなさい」 女性は怯えて回れ右。窓に手をかけるとフードがふわりと外れる。 その下からは冠とルイズのよく知る顔があらわれた。 「姫さま」 「また今度にします」 窓から出ようとレビティーションを唱え、宙に浮いたアンリエッタ王女にルイズが飛びついた。 「い、いえいえいえいえ。大丈夫です。姫さま」 「でも。今勉強で忙しいんでしょ?」 「まったく問題ありません。平気です!」 「ええ……ルイズがいいのなら。それでは」 アンリエッタ王女は魔法を説いて床に降りる。 「極秘裏に、それに火急に、あなたにお願いしたいことがあるのです」 彼女はルイズの手を取り、真摯さを声に込めてそう言った。 ランプの明かりの下、ルイズはアンリエッタ王女の言葉を待った。 アンリエッタの震える手が今から話すことの重要さを伝えている。 ルイズは急かすよりも、まずは待つことにした。 「私はゲルマニアに嫁ぐことにしました」 「なんですって!よりにもよって、あんな成り上がりどもの野蛮な国に?」 ルイズは何よりもツェルプストーの故国という点でゲルマニアが嫌いだ。 そんな国にアンリエッタ王女が嫁ぐというのは信じがたい。 「仕方ありません。小国である我がトリステインを守るためには、ゲルマニアと強固な同盟関係が必要なのです」 「お国のためとはいえ、あまりにお労しい」 「私はトリステインの王女。国のためにこの身を投げ出すことなど、厭いはしません。ですが、問題があるのです」 アンリエッタ王女は顔をうつむけ影の中に顔を隠す。 沈む表情がルイズに見られないように。 「問題、ですか?」 「ええ、大きな問題です。それが世間に知られれば、この縁談は破談になってしまいます」 「姫さま、それは一体」 一度口を開きかけた王女が口をつぐむ。 顔を上げ、もう一度口を開くが、それ以上彼女の喉から出る物はない。 「言えませんか?」 「いえ、言いましょう。ルイズに隠し事ができようはずもありません。それは私がアルビオン王国のウェールズ皇太子に当てた一通の手紙です」 「では、その手紙もアルビオンに?」 「ええ。しかし、アルビオンは今、政情不安定で危険な状態にあります」 「貴族達が反乱を起こし、今にも王室が倒れそうだとか」 ルイズの手を握る王女の手に力が入る。 そして頭を二人の手につくほどに下げ、ようやく言葉をつないだ。 「ルイズ。お願い。もう、こんな事を頼めるのはあなた以外にいないの。アルビオンに行ってその手紙を回収してきて。お願いします」 ──お任せください ルイズはすぐにでもそう言いたかった。 だが、言えない。ルイズにはすぐに答えられない理由があった。 手紙の回収はきっと危険な旅になるだろう。では、その危険に対してルイズはどうやって立ち向かうか。 決まっている。ルイズが持っている危険に立ち向かえる力はただ一つしかない。 ミッドチルダ式の魔法だ。それは本当にこの任務に使っていい物なのだろうか。 その疑問がルイズの胸中に浮かぶ。その疑問を晴らそうと考えるが、答えはでてこない。 だからルイズはすぐ側に立っているフェレットのユーノに聞いた。 (ねえ、ユーノ) (どうしたの?) 念話で会話を交わす二人の声は王女には聞こえない。王女はただ、じっとルイズの答えを待っている。 (姫さまの頼みを引き受けたいの。でも、そうしたらジュエルシードと関係ない人にも、きっとミッドチルダ式の魔法を使うことになると思う。私、どうしたらいいんだろう?) それはユーノにもすぐには答えられない疑問だった。 それでも少し考えて、それから答える。 (ルイズが思ったようにすればいいと思うよ。ミッドチルダ式の魔法もレイジングハートも、もうルイズの魔法なんだ。だから、どう使うかはルイズが決めなくちゃいけない。でもね) (うん……) (僕は、ルイズが間違っていることをしていると思ったら止めるよ。絶対に) (今は止めないの?) (友達のためにルイズが何かするのは間違ってないと思うから) ルイズは心を押しつぶしていた重しがなくなったような気分だった。 ──ありがとう その言葉は声にも念話にもしないでおく。少し、恥ずかしいから。 「姫さま。そのような重要な任務をこの私に命じてくれるなんて、この上なき幸せにございます」 「ルイズ。では、行っていただけますか?」 「はい。お任せください。そして姫さま……」 ルイズにはもう一つ決心したことがあった。それは今の自分を話すということ。 アンリエッタ王女が重大な秘密を話したのなら、ルイズもまた秘密を明かさなければならない。 ユーノも首を小さく振って、今話すことに同意してくれている。 「姫さまに打ち明ければならないことがあります。それは私が……」 ──リリカルイズと名乗って…… そう言葉を続けようとしたとき、ドアが静かに開いた。 「お話は全て伺いました」 扉を開いたその男は部屋に入り、これ以上ないくらいに格好をつけて語る。 それを見てルイズはまず口を開き、それから閉じて歯をむき出しにする。 目も見開いて、次に天井まで届きそうなくらいにつり上げ、さらに格好をつけて膝をついたその男に飛びかかった。 「ギーシュっ!あんたって奴わぁああああああああっ」 ギーシュの首に左手を回し、後頭部を押さえつけ、そしてぎりぎりと締め上げ始めた。 「せっかく、決心がついたっていうのに!」 「やっ、やっ、やっ、やっ、やめたまえ。ミス・ヴァリエール。首に食い込んで……ぐええええ」 ギーシュの顔が赤くなっていく。 「こぉおおおおおんな所で話の腰をおってぇえええええええ」 「いまから、話せばいいじゃないか。ご、ごへえええ」 赤から青に変わる。 「こういうのはね、タイミングって物があるのよ!」 「うわおあえええええおおおおお」 そして、青から白に。ああ、哀れギーシュここで力尽きるのか。 「あの、ルイズ。そのくらいで許してあげましょう」 アンリエッタ王女のおかげで幸いにして、そんなことはなかった。 後にギーシュは川の向こうで祖母が手を振っているのを確かに見たと証言した。 ようやく顔色を元に戻したギーシュは涙ながらに床に這いつくばる。 今にもアンリエッタ王女の靴を嘗めそうな勢いだ。 「ああ、ありがとうございます。アンリエッタ王女。このギーシュ・ド・グラモン、姫さまに感謝と共にこの身の全てを捧げたいと思います。どうか私もこの任務の一員にお加えください」 「あなたも私の力になってくれるのですね?」 「当然です。たった今、命を救われたのです。我が忠誠、必ずやお示ししましょう」 なにやら向こうは向こうで盛り上がっている。ルイズとユーノは少し離れてそれを見ていた。 (ねえ、ルイズ。いいの?) (なにが?) (ギーシュさんがついてきたら、空は飛べないよ) ミッドチルダ式の魔法はアンリエッタ王女以外にはまだ秘密にしておきたい。 シエスタはとりあえず例外にしておく。 (そのことなんだけど、今回は魔法で飛んでいくのはやめることにしたわ) (どうして?) (今までアルビオンに行ったことはあるけど……どうやって行ったかよくわからないの。ほら、フネとか馬車とか中にいたらどう動いているかなんてわからないでしょ?フネだったら航海士がいるけど、私そうじゃないし) (あ、そうだね) ユーノにもわからない話ではない。 発掘メンバーの中にも、車で乗せていってもらった場所に自力で行けないという人がいた。 車でなくフネくらいに大きい乗り物ならなおさらだろう。 (だからギーシュがついて行くっていうのならそれはそれでいいと思うの。それに来るんならしっかり働いてもらうわ) そんなルイズの決心にも気づかずギーシュはまだアンリエッタ王女に感謝と忠誠の言葉を捧げていた。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
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前ページ次ページゼロの戦闘妖精 Misson 12「伝説のフェニックス」(その5) ハルケギニアの大地に 太陽は没した。 残照すら消え去った薄闇の空を 雪風が飛ぶ。 沈黙のコクピット。無言の搭乗員 二名を乗せて飛ぶ。 翼下の専用ラックに固定された 『お喋り魔剣』のデルフすら、何も語ろうとしなかった。雪風経由のLinkなど、使わなくとも判る。 〔嬢ちゃん、ヤル気だな〕 長い沈黙を破ったのは ルイズだった。 「隊長。」 いつもの溌剌とした明るい声ではない。 「ん、何だい?」 それが判る。判るからこそ ワルドはそれに触れず、普段通りの調子で返す。 「戦列艦の搭乗員って、何名位ですか?」 「う~ん。そりゃフネの規模にもよるから一概には言えないけど、最新鋭の艦 ヤツ等が勝手にに改名した『レキシントン』で八百弱ってところかな?」 「そうですか。」 ルイズは、炎上する巨艦の姿を思い浮かべた。爆発と煙の中 竜騎士と脱出艇が兵を満載して離脱する。 全乗員の半分も逃げられれば良い方だろう。そして、残りの半分は… 「ニューカッスル城付近に展開している レコンキスタの艦隊、あれ 全部沈めたら、流石に攻撃中止にはなりますよね。」 「ああ、そうだね。」 「城攻めを本格的に再開するまで、どのくらいの日数を稼げると思いますか?」 「そうだなぁ。少なく見積もっても三ヶ月、上手くすれば半年… だけど、本当に『出来る』のかい?」 「はい、『雪風』なら。 でも 『私』は…」 「もし君が 正規の騎士だったら、僕が言うのはたった一言。『やれ!』、それだけさ。 だが まだ君は見習いだ。迷っているんだったら、止めた方がいい。 如何に雪風が強くても 君が迷っていれば、不測の事態も起きかねない。」 眼を閉じて 深く考え込むルイズ。 「『迷い』… いいえ、迷いは捨てたはず。 あの日 雪風と共に進むと誓った あの時に。 だから 今、感じているもの。これは 身勝手な『ためらい』。私が騎士を名乗る為に 自ら乗り越えねばならない障害なんです。」 「ルイズ…」 そして コクピットに響く警告音。モニタの表示と 雪風からルイズへの報告。 《レーダーに反応。ニューカッスル城攻略艦隊 捕捉。有効射程まで120秒》 来た! 迷いもためらいも その瞬間に吹っ飛んだ。ルイズは 雪風が背中を押してくれたような気がした。 そんな事は有り得ない。それも 判っている。それでも そう信じたかった。 「雪風、SET AAM-L、AAM-M、AAM-S及びAMM。 ターゲット レコンキスタ艦艇群。 信管は内部爆発に。 優先破壊箇所は竜骨・風石庫・火薬庫の順。目的は、確実に目標を修理不能の状態にすること。 照準は任せるわ。トリガーは…私に!」 《RDY. All Target ROCK ON.》 「アイツ等に 雪風の力を見せ付けてやるわ! 派手に行きましょう、『ジャムセンスジャマー』展開!!」 《JSJ ON.and ECM ON.》 雪風の機体全面に 紅く光る縞模様が蠢く。ジャムセンスジャマー。本来は、同様の迷彩を行うジャム戦闘機への眼晦ましである。 だが ルイズは、出来るだけ多くのレコンキスタ兵に雪風を認識させようと 敢えて目立たせる為に使用した。 ハルケギニアの戦場において『最強』の兵器 戦列艦。その群れに 異世界の空で最強を誇った戦術偵察機が襲い掛かる! それは ルイズにとっては、トリガーに掛けた指に ほんの少し力を入れるだけのこと。彼女は、もう ためらわない。 「全ミサイル 斉射っ!!!」 『風石』を使って空を飛ぶ いわゆる『フネ』が何時頃から存在したのか 定かではない。 しかし、現在の『戦列艦』という形態の艦艇が造られて以降 ハルケギニア最強兵器の座は揺らぐ事は無かった。 如何に巨大な地上砲台といえど、充分な高度をとった戦列艦を その射程に納める事は出来なかったからだ。 戦列艦を攻撃可能なのは 同じ戦列艦か竜騎士等の天翔るモノだけ。 空軍を伴わない地上部隊は 一方的に攻撃を受けるしかない。 戦列艦の欠点と言えば 巨額な建造費ぐらいだろう。 だが、それゆえに戦列艦が沈む事は まず無い。 貴重な戦力に無理をさせて 結果沈めてしまっては、例えその場を勝利したとしても 戦略的には負けに等しい。 よって、戦列艦はある程度損傷すれば 修理の為に戦線を離れるのが常だ。 加えて ハルケギニアには、メイジという優秀なダメージコントロール要員もいる。 戦史を紐解いて見ても 戦場で沈んだ戦列艦は ほぼ無いと言ってよい。 『不沈』 それは船乗り達の『誇り』。しかし 誰も気付かぬうちに、『誇り』は『驕り』へと変質してはいなかったか? レコンキスタ艦隊旗艦「レキシントン」艦長 サー・ヘンリ・ボーウッドは、ブリッヂを離れようとしなかった。 戦勝気分で浮付いた クルーの甘さを叩き直す為、そして 自身の抱えた『迷い』と向き合う為に。 彼は 『よき艦長』であり『よき軍人』であり 『よき兵士』だった。軍人一家に生まれ、幼い頃より軍人として教育されてきた。 軍の常識が 彼の常識だった。 だからこそ、艦隊司令が『レコンキスタ』支持を唱え 王家に反旗を翻した際、軍隊における『上意下達ノ原則』に基づいて 何の疑問も無く上官に従ったのだった。 今になって思う。果たして それで良かったのだろうか? 現王家の政策について、思うところが無い訳ではない。モード大公への処罰の頃から、国内に違和感や不満がたまっていったのも事実だ。 それに乗じて勢力を伸ばしたのが レコンキスタなのだから。 では、レコンキスタは果たして 『正義』なのか? レコンキスタ艦隊に編入されて以降、各艦には『御目付役』と称する役員が派遣されるようになった。 彼等は皆 レコンキスタの幹部であるが、軍にあっては全くの素人だった。にもかかわらず 艦の運用に口を挟み 己の間違った意見を押し通し 無用の混乱を起こす。 あまつさえ、平民の女性 それも一目で如何わしい職業と判る女達を『専属秘書』と称して乗艦させ、艦長室を勝手に使用 女郎部屋も同様の状態にして入り浸っている。 他の艦でも似たり寄ったりらしい。 幹部がコレでは、レコンキスタの程度も知れたものである。 こんな連中に国家の運営を任せてよいのか? こんな俗物共の為に戦うべきなのか。 (始祖ブリミルよ、お答えください。私は どうすればよいのでしょうか?) 神との脳内対話に耽るボーウッド艦長を現実に引き戻したのは、いくつもの爆発音だった。 幸い 音源はかなり遠く、自艦内からのものではなかったようだが、 「監視員、何事があった!」 「わっ 判りませ・」 当直の兵士が返答する間も無く、強烈な爆音と共に レキシントンが激震した。 「各員は担当箇所の状況を確認 速やかに報告せよ!」 ボーウッドは自ら伝声管を掴み 全艦に指示を飛ばす。だが 返答があったのは ごく一部のみ。他は連絡すら取れない。 一発目の大爆発から間を置いて 小規模の爆発音が連続して響く。弾薬の誘爆か? 船室の床も ゆっくりと傾きつつある。 被害の規模は 相当に上るようだ。 にもかかわらず、何が起きたのか どのような攻撃を受けたのか 自艦の損傷状況すら、不明だとは… 苛立つ館長が 艦窓から外に眼を向けると、そこには信じられない光景が! 隣に停泊していた僚艦が 二つ折になって炎上していた。 艦の中央付近が大破 艦艇の構造上最も強固であるはずの竜骨までもへし折られて 船体は巨大なV字を形作っている。 日没直後の薄闇の中 燃え上がる船体に照らされて、天に昇る白い筋は、破損箇所から漏れ出した風石だろう。 見渡す先には 同様の『浮かぶ篝火』が連なっていた。ニューカッスル城攻略艦隊、いや 艦隊だったモノの残骸だった。 (我が艦も、あれ等と同じか?!) 怒り 悲しみ 後悔 驚愕 混乱が一時にボーウッドに押し寄せ 我を忘れかける。 だが 『自分は軍人である』という 第二の本能が、艦長の職務を放棄させない! 「残念だが、本艦は…沈む。損傷は、修復可能な域を超えていると思われる。 よって、総員に退艦を命じる! メイジは平民兵を抱えて飛べ!降下揚陸艇と竜騎士は 一名でも多くの船員を乗せよ!命を無駄にするな! 伝声管は 殆ど使えないと思え、今 此処に居る者は、それぞれ艦首と船尾方向へ 命令を直接伝えながら走れ! これは 艦長としての最後の命令だ。『こんなところで 死ぬ事は許さん!』 以上だ。では 行けぇぇぇ!」 部下達が艦内各所へ散り 一人残ったボーウッドは、操舵室を出てメインマスト頭頂部の見張り篭へと昇っていった。 身を晒す事で 謎の襲撃者から攻撃される恐れもあったが、それ以上に『相手』の姿を見てみたかったのだ。 残照すらも既に無く 刻一刻と闇の濃くなる空で、果たしてそれが見えるのか。まだこの空域に留まっているのか。そんな事は考えなかった。 ただ、「せめて 自分の艦をこんな目にあわせたヤツのツラを拝んでやらなきゃ、此処を去る気になれない!」それだけだった。 そして 彼は見た。 遥か彼方で百八十度回頭する 赤い光を。 艦隊を壊滅させ 駆け抜けていった怪物が戻ってくるのを。 ターンを終えたソレは、ほぼ真正面から突っ込んできた。 距離感はつかみにくかったが、徐々に大きくなる轟音から 高速で接近してきているのは判った。 そして 擦れ違う。 ほんの一瞬。ボーウッドが目視確認できたのは 一秒にも満たなかった。 細部など判らない。にもかかわらず、ソレが与えた印象は 眼に、いや 頭の中に焼き付いて 生涯消える事は無いだろう。 巨大な鳥を思わせる姿、甲高くも 重く響く鳴き声、全身に纏った 縞模様の炎。 そこから導き出されるのは……数多の幻獣が存在するハルケギニアにあっても、なお幻と呼ばれる聖獣。神の御使い。 「フェ、フェニックスだとぉっ!!」 (…我々は 神の怒りを買ってしまったのか?) ボーウッドは、燃え上がる艦から離脱する事も忘れ、ただ呆然と立ちつくすのだった。 戦列艦の墜落(撃沈というべきか)は、地上部隊にも多大な被害を与えた。 燃え盛る破片は、天幕を焼き 落下した大砲は兵士を押し潰し 更に暴発して周辺の兵をも血塗れの肉塊に換えた。 興奮した騎獣は暴走(スタンピード)し、あらゆる物を跳ね飛ばし 轢き殺して逃亡した。 偶然にも ある艦の本体は、物資集積所を直撃するように落下し 多くの兵糧・弾薬・医薬品等が失われた。 降り注ぐ炎の雨と巨大な塊、レコンキスタ兵は皆 地獄絵図の中に居た。 そして レコンキスタ上層部は、現実を受け入れられずにいた。 眼と耳を塞いで蹲る者、「こんな事は有り得ない、有り得ない!」と喚き続ける者等。平時に どれほど高い地位に居ようが 官僚系の貴族など、戦場では棒切れ一本よりも役に立たない。では、軍人系は? これも同じ いや もっとヒドかった。余りの被害にショックを受けたのか、錯乱する者、気絶・意識不明 果ては心臓停止する幹部が続出した。 聊か 奇妙な事ではある。いくら主家を裏切った不忠義者の集まりとはいえ、アルビオン軍人として『勇将』『猛将』という評価を受けていた者もいる。それが、文官以下の醜態を晒すとは… 自分だけは生き延びようと 逃げる算段をする者もいた。 その代表が オリバー・クロムウェル 自称皇帝にしてレコンキスタ司令官だった。 彼は 三日後に控えていたニューカッスル城総攻撃の陣頭指揮を執る為 本陣入りしていた所で この襲撃に出くわしてしまったのだ。 組織の長が責務を全うする為に 優先的にその身を守ろうとすることは正しい。 しかし、未曾有の混乱の中 トップとその取り巻き連中が何の指示も出さずに逃亡すれば、誰が現場をまとめ 事態を収拾するというのか? 無責任にも程がある! これが、連戦連勝の勢いだけで此処まで勢力を伸ばしてきた レコンキスタの実態だった。 艦隊を殲滅した『不死鳥』は、その後も暫く レコンキスタ陣地を上空から睥睨するかのように旋回していた。 結果 多くの兵士が聖獣(と思われるモノ)の姿を目撃し、 「神の御使いが、罰を下す為に降臨されたのだ!」 「始祖の血統を継承する王家を滅ぼさんとする者に 神はお怒りだ!」 「レコンキスタは御仕舞だ。フェニックスの炎が 全てを焼き尽くすだろう。」 といった噂が 急速に広がっていった。 ブリミルの教えは、ハルケギニアの民の心に深く根付いている。 普段 神など信じないと公言して憚らない 傭兵や盗賊ですら、無意識のうちに宗教関係の施設には手出しを控えている程だ。 そこに 『神罰』等と言う噂話が流れれば 如何なる事になるか。 公称五万人のレコンキスタ地上部隊は、約二割が死亡又は負傷の為無力化され 約三割の兵士が逃亡した。 残った兵も武器を失い食料も無く 士気の低下が著しかった。とても城攻めなど実施できる状態ではない。 ルイズの目論見は、当初の予測を超えて成功したと言えた。 その偉業を成し遂げた少女は、愛機のコクピットで泣いていた。 雪風のカメラアイは 攻撃の効果確認の為、地上の惨劇を詳細に捉えていた。それは Linkしているルイズに リアルタイムでも伝えられる。 燃え盛る炎 逃げ惑う兵、燃え移る 焼け焦げる、のたうちまわる。 水魔法 消火、間に合わない。力尽きるメイジ。火薬の誘爆、阿鼻叫喚 モノへと変わる人々 死体。それすら焼き尽くされていく。 こうなる事は判っていた。雪風が見せてくれた 向こうの世界での戦闘記録は、もっと悲惨だった。それをルイズは見続けてきた。 眼を背けたりしなかった。自分でも意外な程 冷静に見ていた。絵空事とは思わなかったが やはり何処か『異世界』での出来事だった。 だが 眼下に散らばる数多の骸は、すべて自分が殺したものだ。ハルケギニアに、アルビオンの大地に地獄を生み出したのは 自分なのだ。 怖かった。人が死ぬのが こんなにも簡単に死んでいくのが、こんなにも簡単に殺せてしまう事が。 怖かった。殺せる事が 殺せる『力』が 殺せる『力』を持ってしまった事が。 そして、これからも 『力』を使い続けるであろう 自分が。殺し続けるであろう 自分が。 紅の迷彩を解除して 雪風がアルビオンを去ってゆく。 《Misson complete》 雪風は 一切の感情が篭らない『声』で報告する。 レコンキスタから受けた反撃は皆無。雪風に一切の損傷は無い。もちろん ルイズにも。 彼女は 理性という鎧を纏って戦場に臨んだ。挫けそうな決意を 支える為に。 初めての戦いが終わり ルイズは、己の心情世界で、剥き出しの魂を 真っ赤な返り血に塗れた腕で抱きしめていた。 強固な筈の鎧は 『ひとごろし』という現実の前に 脆くも崩れ去った。 恨みと憎悪の込められた 死者の血の呪いが 二本の腕を侵していく。魂すら染めてしまおうとする。 だが 魂は光り輝く。這い寄る穢れを払いのけるかのように 眩しく輝く。それは ルイズの本質。 戦闘…… 手にしたものは『勝利』と、一人の少女が背負うには重すぎる 『何か』。 ルイズの精神は、ギリギリの所で 外道に落ちることなく踏み止まっていた。 そして 差し延べられる『救いの手』。 「ようこそルイズ、『こちら側』の世界へ! 嘘吐きだらけの『大人』の世界へ。金と欲望の『俗物』の世界へ。 そして、血塗れ 泥塗れになりながら それと戦い続ける、人殺しの『騎士クラブ』へ!」 インカムから流れるのは ワルドの声。普段通りの ひょうげた口調。 「…隊長ぅ?」答えるルイズは 喉を詰らせた涙声。 「君は 騎士になるのだろう? 騎士なら、泣くな! と言いたいところだけど、泣いてイイよ。むしろ 死んでいく者の為に 泣いてやってくれ。」 ワルドに「泣いていい」と言われ、逆にルイズの涙は止まった。 「僕も含め 騎士ってヤツは皆 人殺しに慣れ過ぎちまってる。そうでもなきゃ こんな職業続けられんからね。 でもルイズ、君は、君だけは 今の気持ちを忘れずにいてほしい。君は 雪風の主人だから。」 (何故?)ルイズには判らない。(何故 雪風の主人だと、泣いてもいいの?) 「雪風は凄い、予想を遥かに上回って強かったよ。そして 僕らよりもずっと 人殺しを禁忌としていない。それも判った。 君と雪風は、二人で一つだ。だから 君は雪風と同じになっちゃダメだ。自分のココロを殺しちゃいけない。 人を殺して 何も感じられなくなったら、雪風と同じ殺人機械だ。 機械じゃ 機械の間違いを止められない…」 「間違いを、止める?」 (雪風は、私よりずっと賢いわ。間違ったりするとは思えないけど。) ルイズは 全面的に雪風を信用している。依存していると言っても過言ではない。 「僕らが戦う目的は 『守ること』。国を 民を 自軍の兵を、皆を守る為に戦う。 雪風は違うような気がする。こいつの目的は たぶん『勝利すること』。違うかい?」 はっとするルイズ。心当たりは ある。 雪風に行動プランを問う。ほぼ 瞬時に回答がある。それは常に、最も早く 最も効率がよく 最も確実なプランだ。 だが ある事が欠けている。『ルイズ以外の人間の 安全確保』だった。 ルイズは自分の『マスター』だから 守る。それ以外の人間は 関知しない。むしろ 障害となるなら、排除する。 ジャムに勝利する、それだけを目的とした FAF最強の電子戦術知性体が、コントラクト・サーヴァントの強制力に対して 折り合いを付けた『妥協点』がそれだった。 だから 雪風は、ルイズが指示しない限り 自分とルイズ以外を守ろうとしない。 惑星フェアリイの戦場、FAFの兵士は、永らくジャムと戦い続けることで 徐々に人間らしい感情を擦り減らしていくという。 ただし それは、正体不明の異星体・ジャムとの戦いで顕著な症例であるだけで、戦場ならば何処でも発生する神経症である。 もちろん ハルケギニアにおいても。 もし ルイズが、他人の行動に一切感心を示さない『ブーメラン戦士』になってしまったなら、誰が雪風に『人間を守れ』と命じるだろうか? 命令がなければ 雪風は、街一つ いや国一つを犠牲にしてでも、『勝利』を目指して戦場の空を駆けるだろう。 それでは 雪風こそが『人間の敵』になってしまう。 「判りました 隊長。 雪風は 機械として、私は 人間として戦います。戦いの中でも 心を捨てたりしません。 立派な騎士になれない、いつまでも 泣き虫の騎士かもしれませんが、それでいいですか?」 何かをふっ切れたのか、明るさの戻ったルイズの決意表明に、ワルドが答える。 「ああ それでいい。 でも また一つ 君に苦労をかけることになってしまうね。すまない。 戦場じゃ 何も考えず 機械のように相手を殺し 殺した相手の事はすぐに忘れちまった方が、精神的には楽なんだよ。 君の目指す、『人間的な騎士』は、戦う相手の事を常に気にかけ 殺した相手は忘れないって事だ。 こりゃ 一戦終わるごとに かなり落ち込むだろうね。」 すると ルイズはにっこり笑って 「そこのところは 隊長にフォローしてもらいます。 そうですねー、うん ブルドンネ街でスイーツでも奢って下されば、機嫌ぐらい すぐに直して見せますよ!」 「おいおい あの辺りの店って言えば、高級店ばかりじゃないか? 勘弁してくれよ、僕はこれでも、『貧乏隊長』なんだから…」 どうやら スイーツなしでも、ルイズの機嫌は よくなった様子。 空気が重かった往路と違い 復路はコクピット内に笑い声が響いていた。 さて、同じ頃 トリステイン国内では… (続く) 前ページ次ページゼロの戦闘妖精
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前ページ次ページゼロの花嫁 次なる立候補を募る前に、三年の男は自らが前に出る。 「残虐非道なゲルマニアの悪鬼は、この私自らが退治するとしよう。みんな、異存は無いな?」 その勇敢な行為を集まった皆が賞賛し、そしてその人選に納得する。 彼はこの場に集まった誰よりも強いとされている人間だからだ。 トライアングル対トライアングル。 こんな決闘はそうそうお目にかかれるものではない。 観客達は固唾を呑んで二人を見守る。 「始め!」 号令と同時に二人は詠唱を始める。 詠唱の終了は同時、キュルケはファイアーボール、男はエアハンマーを唱えていた。 キュルケの放つ火球は男の放ったエアハンマーに弾き飛ばされ、ファイアーボール諸共にエアハンマーがキュルケを襲う。 まともにそれらをもらったキュルケは大きく後ろに跳ね飛ばされる。 幸い火球はキュルケを逸れていってくれたが、巨大な何かにぶん殴られたような衝撃にキュルケの表情が歪む。 どちらも初弾で崩し、次弾で大技を狙っていたのだ。 すぐに次なる詠唱に入る男。 キュルケは頭を振りながら立ち上がる。 「ウィンディアイシクル!」 咄嗟に真横に飛ぶも、襲い来る氷の矢全てをかわす事は出来ずに数発が肌をかすめる。 それでも気丈な表情を崩さないキュルケだが、内心はそれどころではなかった。 『痛~っ! ハタで見てるより遙かに痛いわよコレ!』 ちらっと自分の傷口を見てみると、皮と肉の一部が削れただけだ。 『嘘っ!? こんなに痛いのにこれだけ? それじゃあルイズはどんだけ痛かったってのよ! 信じられない! 良くもこんなの我慢出来るわね!』 観客達の歓声が耳障りだ。 だが、そんな事を考えている余裕も無さそうで、次なる魔法がキュルケを狙っていた。 再度ウィンディアイシクルが飛んできそうな気配を感じ、走って標的をぶらしにかかる。 案の定動く標的相手ではそこまでの命中精度は望めないらしい。 しかし、それでもまた数発が体をかすめ、冷や汗を掻いたのも事実だ。 反撃をしないとと呪文を唱えるが、相手の方が僅かに早い。 詠唱の為に足を止めていたせいで、またまともにエアハンマーをもらってしまう。 真後ろにごろごろ転がりながら、呪文を唱えるキュルケ。 ふらつく頭で立ち上がりざまにファイアーボールを放つ。 狙いが定まるかどうか自信は無かったが、うまい事男に向かって飛んでくれた。 が、男はキュルケの詠唱を見ていたのか、いつのまにか唱えていたウォーターシールドで水の壁を張り、火球を受け止めた。 『コイツ! なんだってこんなに戦い慣れてるのよ!』 何しろ呪文の組み立て方が見事すぎる。こちらのやる事なす事全部お見通しと言わんばかりだ。 しかもウォーターシールドであっさりファイアーボールを止める辺り、魔力もどうやら向こうの方が上らしい。 しかし、とキュルケは思う。 『どうやらタバサと同系みたいね。だったら……』 杖を構えるキュルケ。 『絶対負けられないのよ!』 次の男の一手はラインスペルと決め付け、同じくラインスペルであるフレイムボールを唱えるキュルケ。 しかし、男が唱えた呪文はドットスペルのエアハンマー。 術を唱え終わる前にまたも衝撃がキュルケを襲う。 『痛い! とんでもなく痛いわよコレ! もーどうしてくれようかしら!』 しかし、心中泣き言全開しつつ、吹っ飛ばされ、転がりながらも術を唱え終える。 「フレイムボール!」 男はすぐにウォーターシールドを唱えるが、間に合うわけがない。間に合ったとしてもぶち抜いて終わりだ。 勝利を確信するキュルケ。 だが、男の唱えたウォーターシールドはギリギリで間に合い、火球着弾直前に水の壁が現れる。 水の壁にぶつかった所で一度完全に火球は止まる。 男はその隙に脇へと飛びのくと、水の壁を貫いた火球がその横を通り過ぎていった。 フレイムボールの速度はそう簡単にかわせるような速さではないが、一度止まるとわかっていれば、確かに、かわす事も可能かもしれない。 だが、言うだけでなくそれをやってのける人間はそうは居まい。 男はおそらく軍の訓練を受けているのだろう。 そうとしか思えない程の見事な技であった。 言動は癇に障るなんてものではなかったが、どうやらその技術は賞賛に値する人間らしい。 学園でコイツに勝てる奴なんて居ないのではないのか? そうキュルケは思い、そして、この男との駆け引きを放棄する事にした。 同じ土俵に上がってまともにやってはまるで勝てる気がしない。 なら、男に出来なくて、自分に出来る事で挑むしかない。 覚悟は決まった。 恐い、嫌だ、やりたくない、絶対に後悔する、途中で投げ出したら恥さらしもいい所だ。 うるさい、そんなセリフを、態度を、あのルイズの前で晒せるものか。 キュルケは杖を高く掲げ、詠唱を始めた。 男はキュルケが詠唱を始める前に既に呪文を唱え始めていた。 唱える術はラインのウィンディアイシクル。 それはキュルケの術よりも先に完成し、詠唱中のキュルケを襲う。 キュルケは詠唱を中止してこれを避け……無かった。 詠唱は続けたまま、無数の氷の矢がまともにキュルケに叩きつけられた。 命中は四本、胴体下部右側、左腕上部、右足腿、そして最後が強烈で左の側頭部に当たって矢は跳ね、斜めの方向に飛んでいった。 しかし、半ば意識を手放しながらもキュルケは立っており、その詠唱は止まらなかった。 『これ! もう絶対無理! 次来たら逃げるわ! もう全部投げ出して部屋に逃げ帰って布団被って寝る! もう決めたわよ! 誰にも文句なんて言わせないわ!』 男は、キュルケは後一押しで倒れると見た。 ならばドットスペルで充分、それにエアハンマーは行動の阻害に最適だ。 もし、この男が軍の訓練だけでなく実戦を経験していたのなら、また違った選択肢も生まれたであろう。 実戦において遭遇する死を目の当たりした人間のしぶとさを、それを腹に収めた人間の覚悟を知っていたのなら。 しかし、現実には実戦経験を得る機会も無く、また、今のキュルケのような若さ故の自暴自棄にも似た蛮勇との対戦経験も無かった。 キュルケの呪文は難易度が高く、さっきのように転がりながら唱えられる程キュルケはこの術に熟練していなかった。 そんな状況で、エアハンマーがキュルケに襲い掛かってくる。 後ろ足を引き、腰を落とす。 膝に余裕を持たせ、来るべき一瞬に備える。 もう何も見なくていい。 敵の位置は真正面、衝撃がどう襲い掛かってくるのかは体が覚えている。 後は、自分の体がその方角を向いたままで詠唱を、術の完成を終えるだけだ。 キュルケがはっと我に返った時、すぐに自分が致命的な場面で意識を手放してしまった事を思い出す。 慌てて放ったはずの自分の魔法を探す。 すぐに見つかった。 何せ真正面の芝生がそりゃもう見事な程に黒々く焼け焦げていたからだ。 その先には一人の男が真っ黒になって倒れている。 「……判別つかないけど、多分、こいつよね」 どうやら自分が一瞬意識を失った事に誰も気付いていないらしい。 だから、キュルケは当然といった顔で振り向き、後ろで見ているアイツ等に見せ付けるようにガッツポーズをしてやった。 タバサはルイズの耳元でキュルケが勝った事を囁く。 ルイズはもう焦点の合って無い眼で何処か遠くを見つめたままだ。 出血と激痛で意識が混濁してきていると思われる。 その癖、タバサが医務室に連れて行こうとすると、意識は覚醒させ全力で抵抗してくる。 そしてそれを諦めて、静かにさせているとすぐに上記の状態に戻るのだ。 これでは戦闘は不可能、まあ怪我の状態からもそもそも無理なのだが、なので後はキュルケが何とかするしかないが、どうやらキュルケもかなり危険な状態に陥ってる模様。 ここらが潮時である。 しかし、三年軍団はそのリーダーを倒されて尚、怒りが収まる気配は無かった。 いや、むしろ今まで彼等を制して来た男が居なくなり、本格的に暴徒化しそうな勢いだ。 だが、今ならまだ間に合う。彼等はリーダーの男が倒された事を正確に理解していない。 タバサはルイズを横に寝かせ、キュルケの元に歩み寄る。 観客達でそれを咎める者は居なかった。 「キュルケ、今が引き上げ時」 すぐ側まで来て小声でそういうタバサ。 しかしそんなタバサを叱責するキュルケ。 「ばかっ、何で来たのよ」 「引き上げる。一緒に」 「もう……遅いわよ」 最早決闘もへったくれも無い。こいつら全員ただでは帰さない。 観客達、特に三年生達は皆そんな顔をしていた。 タバサはすぐにシルフィードの居る位置を確認する。 上空待機中、遙か頭上で旋回している。 だが、安易に彼女を降ろす事は出来ない。 それが引き金となってしまうから。 不自然な沈黙は、徐々に緊張感を高め、そしていずれそれに耐え切れなくなった者が出た時が、破滅の合図だ。 そんな静寂が、本来聞き逃してしまうかもしれない音を全員の耳に届けた。 校舎の二階の窓を開く音、そして…… 「そこまでじゃ!」 燦の良く通る声が広場中に高らかと鳴り響いた。 燦はデルフリンガーを手に二階の窓から広場目掛けて飛び降りる。 スカートと上着の裾が風に靡き、優雅に宙を舞うその肢体はまるで花が零れるようであった。 そのまま地面に吸い寄せられるように着地、そして僅かな停滞も無く歩き始める。 その歩みはまずルイズの側へ。 「何なら寝てても良かったのよ」 彼女に笑みを返して歩を進める。 次に広場の中央に居るキュルケの側に。 「何よ、もう来ちゃったの? こっちはその前に終わらせるつもりだったのに」 タバサは燦から目を離せない。彼女の動き次第で全てが決まるが、彼女がどう動くつもりなのか全く読めないからだ。 燦はすいっとキュルケ達から離れ、十数歩歩く。 剣を手にしたその肩が僅かに震えている。 ルイズ、そしてキュルケの怪我は燦の許容できる範囲を著しく超えていた。 「……このしょうたれ共が……」 クラスに居た時より人数が増えているではないか、一体、どういう了見なのか。 「……この……」 二人の赤黒く染まった制服は、燦の理性を粉々に砕いてしまった。 「こんのチンピラ共が! どいつもこいつも叩っ斬っちゃらぁ! どっからでもかかってこんかい!」 タバサがその場に跪く。 燦に期待した自分が愚かであったと痛感した瞬間である。 不意に隣から笑い声が聞こえる。 キュルケは爆笑しながら燦の隣に歩み寄る。 「まったく、後先考えない娘ねぇ」 タバサも仕方なく立ち上がって側に立つ。 「人の事言えない、絶対」 それを見た生徒達が何かを言う前に、最後の一人が声をあげる。 「こらそこ! なーに私を置いて勝手に始めようとしてんのよ!」 見た目の怪我とは裏腹に、しっかりとした足取りでルイズもこちらに歩み寄ってきている。 「こんだけの目に遭わされた私抜きなんて、許されると思ってんの?」 四人はお互いに背中を向け合って周囲を取り囲む生徒達と相対する。 許しがたき敵は、自分から固まってくれた。 ならば、怒りに燃える生徒達がこれを遠慮する理由は最早残っていない。 一人が詠唱を開始すると、皆が我先にとそれに続く。 キュルケ、タバサも詠唱を始め、ルイズは防御直後に踏み込もうと腰を落とし、燦は大きく息を吸い込む。 「何をやっとるか貴様等!」 その怒声は、この学園に居る者ならば誰もが恐れ敬う人物、オールドオスマンの怒声であった。 皆が学園最強人物の登場に驚く中、タバサは一人安堵の吐息を漏らす。 オールドオスマンの後ろにはモンモランシーが控えていた。 当のオールドオスマンは憤怒の表情で広場に歩いてくる。 ここまで怒った彼は、誰しも見た事が無かった。 「この馬鹿者共が! 仮にも貴族を名乗る者達が何たる醜態か! 恥を知れ愚か者!」 オールドオスマンの後を追うように教師陣も広場に駆け寄って来る。 教師達の指示で強制的に解散させられる生徒達。 主犯格と思しき人物達は別室へと連れて行かれた。 そしてこの騒ぎの元凶たるルイズ、キュルケ、燦、そしてタバサの四人の前には、オールドオスマンが怒り顔を隠そうともせずに立っていたのだ。 「ミスタバサ!」 「はい」 「事の次第を我々に報告するよう動いたのは、まあ良い。だが! 何故こんな騒ぎになる前に報告せなんだか!」 「申し訳ありません。私が生徒間のみで解決出来ると勝手に判断した結果です」 「その挙句がこのザマか! 愚か者めが!」 次にルイズ、キュルケの順に睨みつけるオールドオスマン。 「貴族を名乗り、大いなる奇跡、魔法を操る学園生徒が! 私闘に魔法を用いるとは何事か! その上相手に大怪我まで負わせるなぞと言語道断じゃ!」 しかし、オールドオスマンの怒声はそこまでだった。 コルベールがルイズとキュルケの怪我を理由にこの場を収めてくれたのだ。 あくまで一時的な事であり、怪我の治療が終わったら嵐のような叱責を受けるのは必定であったが。 不貞腐れた顔で医務室に連れて行かれるルイズとキュルケ。 燦とタバサはその場に残り、状況を詳しく説明する事になった。 ルイズ、キュルケの治療が終わる頃には燦もタバサも事情説明という名の地獄のような叱責から開放されており、四人は医務室内、ベッドルームにて再び合流した。 「……どないしょ、オスマンさんめっちゃ怒っとった」 「当然。あそこで手が出なかっただけ、理知的な人物」 「じゃきに、オスマンさん学校で一番偉い人なんじゃろ? 私達どないなってしまうん?」 タバサにもどんな罰則が下されるのか想像できない。 最悪、放校処分も覚悟しなければならないだろう。 ちなみに、ルイズとキュルケの二人はベッドに入ったまま一言も無い。 中途半端な形で終わらせられてしまったのが不満だったのだが、そんな思いも頭に上った血が落ち着いてくれば、変化してくる。 キュルケはぼへーっと天井を見つめたまま呟いた。 「ねえルイズ」 「何よ」 「もしかして、私達ってとんでもないバカなんじゃない?」 「そうね」 そこでしばしの沈黙。 今度はルイズも同じくのへーっとしながら天井を眺めて言った。 「ねえキュルケ」 「何よ」 「救いようが無いぐらいバカよね、私達」 「そうね」 考えれば考える程に自分の馬鹿さかげんを思い出してヘコんでしまいそうになる二人。 キュルケはベッドから身を起こす。 「ルイズ、いつまでもここに居てあいつらと顔合わすなんて事になったら不愉快よ。さっさと出ましょう」 ルイズもそれが気になっていたのか、すぐに同意してベッドから降りる。 タバサと燦が慌てて止めるも、二人は平気な顔ですたすたと医務室を出る。 途中でシエスタとすれ違うと、包帯まみれの二人を見て驚き、心配してくれた。 そんなシエスタにキュルケもルイズももう大丈夫と笑って見せた。 『大丈夫? そーんなわけないじゃないの! 歩くだけで振動でもう泣きそうなのになんでキュルケは平然としてるのよ!』 『ルイズ! あれだけの怪我しておいて何平然とした顔してんのよ! なんて腹の立つ子! おかげでタバサの肩借りたいのに言い出せないじゃない!』 二人の内心はさておき。 そして四人はルイズの部屋に集まった。 キュルケは部屋の主よりも先にルイズのベッドに倒れこむ。 「キュルケ! それ私のベッドよ!」 「うっさい、私は疲れたの」 ムカっと来たルイズは実力行使に出る。 「そこをどきなさいタックル!」 ベッドに横になるキュルケに自分も横になりながらベッドに飛び込んで体当たりするルイズ。 「っっ!!」 「っっ!!」 二人してベッドの上に横になりながら痛みに震える。 タバサは言いたい事が山ほどあったので一緒に部屋に入ってきたのだが、二人が馬鹿やってるのでとりあえず落ち着くまでは待つ事にしているらしい。 ベッドの上で顔を付き合わせる二人。 「じ、自分の部屋で寝ればいいでしょう」 「も、もう一歩だって歩くの嫌なのよ」 そのままぐでーっと体を伸ばすキュルケ。 「あ、もうダメ。私今日ここに寝るわ。ルイズ、あんた私のベッド貸してあげるからそっちで寝なさい」 「意味がわからないわよ!」 燦はそんな二人を苦笑しながら見ていた。 「晩御飯はどうする? 今日はやめとく?」 キュルケは首だけそちらを向けて答える。 「ああ、それならさっきシエスタに頼んでおいたからもう来ると思うわよ」 タバサは心配そうにしている。 「……食べれる?」 ルイズはベッドに突っ伏している。 「私はいらない。少し気持ち悪くなってきたわ」 そこにノックの音が聞こえ、シエスタが台車の付いた台に食事を乗せて持ってきた。 その食事の内訳を見た燦が怪訝そうな顔になる。 タバサは、それを見てキュルケを少し睨んだ。 シエスタも困った顔でベッドの脇まで食事を運んできている。 「一応、ご依頼通りですが……その、お酒はあまりお勧め出来ませんよ」 食事というよりつまみの一品料理ばかりで、台車の下段には夥しい量の酒が載っていた。 キュルケはベッドの端に腰掛けるように座って、酒の瓶を引っ張り出す。 「体中痛すぎて、酒でも無いと眠れそうにないの」 タバサがそれを横からひったくる。 「駄目」 「えー! いじわるしないでよタバサ~!」 「絶対、駄目」 その隙に横からひょいと顔を出したルイズが酒瓶を手に取り、封を開ける。 「あー! イカンてルイズちゃん!」 「良い考えね。酔えばこの痛いのも何とかなるでしょ」 コップを取って注ぎ、燦が何をするより早く一息に空ける。 慌てた燦が止めに入るが、ひらりと後ろを向いてかわし、コップに酒を注ぐ。 すると、横からそれをキュルケが奪い取り、文句を言われるよりも先に飲み干す。 「ん、おいしっ」 タバサがルイズから瓶を奪おうとするが、ルイズはその瓶をキュルケにパス。 キュルケはルイズを壁にしてベッドの奥でコップに酒を注ぐと、ベッドに乗り出してきた燦をかわしながらルイズにコップを渡す。 ルイズは片手でタバサの頭を押さえながらそれをぐいっと飲み干し、キュルケは瓶ごといった。 「もー! 二人共怪我人なんじゃからお酒なんてイカンて!」 「大丈夫、大丈夫。ねえキュルケ、傷痛くなくなってきたと思わない?」 「そうそう、やっぱりお酒っていいわよね~。タバサ~、量は考えるから見逃してよ」 タバサはじーっとキュルケを見るが、諦めたようにベッドから降り、自分も酒瓶とコップを手に取った。 許可が降りたのが嬉しかったのか嬉々としてタバサに擦り寄るキュルケ。 「手酌は無しよ、ほらほらぐいーっと」 うきうきでタバサのコップに酒を注いでいる。 それを見た燦もしょうがないとばかりにベッドから降りた。 シエスタが燦のコップに果汁ジュースを注ぐ。 燦は夢中になってキュルケとルイズの話に聞き入っていた。 話題はさっきの決闘の事。 途中参加の燦は二人の勇姿を見ていなかったのだ。 ルイズとキュルケが交互に聞かせてくれる話に感動して涙を流す燦。 怪我を意に介さず戦い続けるなぞ、燦のストライクゾーンど真ん中である。 「漢前じゃー! 二人共めっちゃ漢前じゃー! うわー、傷の手当私がしたかったー!」 黙々と杯を重ねるタバサ。 文句も山ほどあるが、溜飲が下がったのも確かではあった。 正直な話をするとタバサも、キュルケが自分の得意魔法で傷つけられていく様を見ていた時は、自制をするのに苦労していたのだった。 良い感じで酔っているせいもあり、ルイズもキュルケも楽しそうに笑いながら決闘の話をしている。 やれあの時の連中の顔は見物だっただの、パンチを入れた時はスカッとしただの、あの戦闘のやりとりは参考になるだの、まあ結局最後に勝ったのは私だけどねだの。 シエスタはあまりの話の派手さに目を白黒させていたが、みんなが楽しそうにしているので、つられて笑っている。 キュルケは座ったまま真上を向いて目を閉じる。 「あー、本当に良い気分よね~。もう何処も痛くなくなってるわ~」 ルイズは酒瓶からコップに酒を注ぐのに苦労している様子。 「何よ……やりずらいわね……」 ふと、シエスタはキュルケの服の汚れに気付いた。 そこら中破けて血だらけになった制服はとうに医務室備え付けパジャマに着替えてあるのだが、それに黒い染みがあったのだ。 「ミスツェルプストー、その染みは……」 はたと気付く。 染みが徐々に大きくなっている。そして、それは一箇所だけではなく複数個所に及んでいる。 「み、みみみミスツェルプストー? もしかしてもしかして……傷口開いてません?」 ルイズが酒をうまく注げずに居るのを見て、燦は代わりに注いでやった。 「ありがとサン。なんでこんなにやりにくい……」 自分の左腕を見てみる。酔っ払っているのか何やら常より太く見える。 「る、るるるルイズちゃん! 腕がめっちゃ太うなっとる! それ腫れとるんちゃう!?」 言われてみれば、なんだか左腕が痛い気がする。 いや、気のせいどころか本気で痛い。脂汗出てきそうなぐらい痛い。 「ご、ごめんサン。ちょっと……痛いこれ……」 「あー、何言ってるのよ。私は全然痛くないわよーん」 腕を押さえて倒れこむルイズと、ケタケタ笑いながら血塗れになっていくキュルケ。 悲鳴をあげるシエスタ。 わけがわからなくなり、ばたばたと駆け回る燦。 タバサは、静かに酒を飲んでいる。 そこにあまりの騒々しさに頭に来たのか、モンモランシーが文句を言いに来た。 「ちょっと! あんた達少し静かに…………何よこの地獄絵図?」 そこらに転がる酒瓶と、ルイズ、キュルケの怪我の状態から全てを察するモンモランシー。 大慌てで医務室へと駆け込み、救急隊員がまた、ルイズの部屋に走りこんできた。 彼らは嵐のように怒鳴り散らし、罵声を浴びせながらルイズとキュルケを連れ去っていった。 燦は二人に付き添って医務室へ向かう。 残されたシエスタは、もう一人残った彼女へと声をかけた。 「あの……ミスタバサは行かなくてよろしいんで?」 タバサは、顔色一つ変えず杯を重ねていた。 「知らない」 どうやらタバサは、見逃したのではなく見捨てたという事らしかった。 前ページ次ページゼロの花嫁
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私こと、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールが召喚したのは、まさしく異形のものだった。首から下は別に変わりはない。黒塗りの鎧の下にあるその体は、いささか、というかめちゃくちゃ鍛え抜かれていて腕も丸太のように太いという力強い肉体ではあるものの、それでも人間の体であることには違いがなかった。 しかし、首の上は人間とはまったく違うもの――豹だったのだ。 魔法が使えず『ゼロ』と馬鹿にされ続けた私で何度も失敗してやっと召喚できたけど、こんな亜人を呼び出してしまうなんて思いもしなかった。それに召喚のあとで少し話を聞くと、亜人が使うような特殊な魔法も使うことができないという。 私は落胆した。結局私が呼び出したのはただ体が鍛えられているだけの平民と代わりが無いと思ったからだ。 でも、そんな私の考えは翌日あっさりと覆されることになる。 なんとこいつは、魔法が使えないにも拘らず、私のクラスメイトのギーシュが繰り出したワルキューレというゴーレムを倒してしまったのだ。それも腰に挿していた剣を使わず、素手で、だ。あまりのことに私も含めたその場にいた人間全員が呆然としてしいたことを覚えている。 初めは平民だって思い込んでいたから分からなかったのかもしれないけど、一緒に過ごし始めてからだんだんこいつの凄さが分かっていった。 それからもこいつは私達の常識では考えられないことをしていく。 フーケという私の国、トリステインを騒がせていた盗賊を捕らえたり、私の婚約者でスクウェアクラスのメイジ、そして祖国の裏切り者ワルドを倒してしまったりと、例を挙げるには枚挙に暇が無い。 しかもこいつの傍にいると、何か安心できるのだ。それは魔法が使えなくとも何者にも負けない強さと、何でもこなしてしまう頼りがいがあるこいつの傍が安心できるからという理由なのかもしれない。そしてその空気に惹かれてか、豹頭という異形に関わらず、貴族や平民関係なく多くの人間がこいつの周りに集まるようになっていった。 でも私は初めてそのことに気付いたとき、皆が皆私じゃなくて使い魔ばっかり見ていると思ってしまい、私はへそを曲げて拗ねてしまったことがあった。確かにこの使い魔は凄い。強いし誠実、その上優しいときていて人間として完璧としか言いようが無い。でも、だからこそ自分との差がひどく辛いものに感じてしまった。そして、ついに「何で使い魔のあんたは何でもできて人に好かれて、そんなに強いのよ! ――バケモノの癖に!」って言ってしまった。勿論言ってしまってからものすごく後悔した。いきなり見知らぬ土地に呼び出して、いつもわがままばっかり言ってる自分を助けてくれて、優しくしてくれた。そんなこいつに、こんなひどいことを言ってしまった。 もう私達の関係は終わりなのだと思った。でも信じられないことに、こいつはそれでも私を許してくれたのだ。そして他の人には言っていないことをこっそりと教えてくれた。自分は『ランドック』と呼ばれた国の追放された王であること。そして追放された先の世界でも一つの場所で王となり、また別の場所で黒竜将軍という将軍をつとめていること――つまり、このハルケギニアではない世界から召喚されたこと。そしてこいつは自分がこのハルケギニアでこうしていることで、前にいた国とそこにいる友と呼べる人間に対して自分は不忠なのではないか、ここにいることで彼等に対して裏切りを働いているのではないか、そしていつか彼等だけでなく、ここにいる人たちでさえも豹頭のせいではなれられてしまうのではないかという不安があったこと。――こいつも悩んだり、苦しんだりしているのは私達と変わらないのだということを。 それを聞いたとき、ただただこいつのことを何でもできる、完璧なやつだって思い込んでいた私の考えは間違っていたことに気付いた。そして前よりもより近くこいつの存在を感じるようになった。……余談だけど、こいつが私から離れなかった理由はこいつが私を許してくれる優しさがあった以外にもう一つあって、なんでも私みたいに目が離せない女性が好みだからと何事にも動じないこいつには珍しくうろたえたり口ごもったりしながら教えてくれた。私がそれを聞いたときは何それと思ったけど、顔がめちゃくちゃ熱かった。 そんなこんなをしていくうちに月日が流れて、ついにその日が訪れることになる。 反乱によって王家が倒れたアルビオンが、その牙をトリステインに向けてきたのだ。当初はその突然さに皆慌てふためくばかりで、何もすることができなかった。やっと軍を動かせた時点でもう敵はトリステインに侵入していて、もうなす術は無いかと思われていた、そのときだった。 戦いのさなか、突然敵の横から兵が平民で構成されている軍が現れたのだ。 私はその時、幼馴染ということで姫様を安心させるために傍に控えていて、そのときは何が起こったのかと思ったけど、すぐにだれがこれをしてくれたのかということに気付いて笑みを口に上らせた。 突然の奇襲、その上上空の敵に対する備えもしていた彼等に押されていくアルビオン軍。そして私は見る。デルフリンガーを振るい、片手を上げて軍を指揮する一人の超戦士を。 私は思う。これからもあいつを見ていたいと。 あいつは次に何をしてくれるのだろうと思うとわくわくする。そう、まるで一つの英雄譚を見ているかのように。 いつかは帰ってしまうその日まで、これからもあいつは英雄譚を作り上げていくだろう。でもあいつがいなくなったとしてもその軌跡は豹頭という異形に関係なく、サーガとして決して忘れられることなく語り継がれる。そう、 グイン・サーガとして――
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十話「ハイスクール危機一髪!」 オイル怪獣ガビシェール 登場 「……おにーちゃーん! お・き・てー!」 ……俺がぐっすり寝ていると、不意に甲高い声音での呼び声が聞こえた。 しかし、「お兄ちゃん」とは妹が兄を呼ぶ言葉だ。弟の場合もあるだろうがそれは考えないものとする。 そして俺に妹はいない。つまり起こされているのは俺ではない。なーんだ、まだ寝てよっと。 「もう! お兄ちゃんたら、起きなさーい!」 「ぐえッ!?」 そう思ったのだが、急に腹に衝撃が来た! だ、誰かが俺の上に飛び乗ってきたみたいだ……。 「おはよ、お兄ちゃん!」 目を開けると、俺の腹部の上に、ツーテールの小さい女の子が跨っているところを目にすることとなった。 「……は? おにい……ちゃん?」 「うにゅ、寝ぼけてる? 駄目だよー、もうお日様も元気なんだからね?」 女の子は元気に俺に話しかけてくる。けれど……こんな子に見覚えはないぞ。一体誰なんだ……? 「……あの、どちらさまでしょう? 俺に妹はいなかったと思うんですが」 そう言うと、女の子は唇をとがらせた。 「ぶー! いるよー! ひどいよ、サイトお兄ちゃん!」 「は? え? ちょ、え? 俺がお兄ちゃん? お兄ちゃん?」 事態が全く呑み込めずに混乱していると、部屋にシエスタが入ってきた。 「あら、リシュさん。今日は先越されちゃいましたね」 「おっはよー、シーちゃん! 今日はリシュの勝ちだね、えっへん!」 シエスタは女の子と親しげに言葉を交わした。ということは、シエスタはこの女の子を知っているのか? 「シ、シエスタッ! この子、知り合いなのか!? 俺の部屋に勝手に入ってきてたんだ!!」 女の子をどかして跳ね起きた俺が聞くと、シエスタはきょとんとした顔になった。 「知り合いって……そんなの当たり前じゃないですか。サイトさんの妹なんですから」 「え? いも、うと……。俺の?」 「そうですよ。どうしたんですか、サイトさん?」 至極当然といった風に言うシエスタ。 そう言われると……確かにそうだったような気がしてくる……。 うん、そうだ。俺とリシュは兄妹。幼馴染のシエスタも入れて、楽しく暮らしてきたんだった。 どうしてそのことをすっぽりと忘れてたのか……自分で自分が不思議だ。 「もうご飯できてるよ! 早く食べに行こう、お兄ちゃん」 気を取り直して、俺は呼びかけたリシュに返答する。 「そうだな。んじゃ俺着替えるから、先行ってろ」 「手伝ってあげよっか?」 「妹に着替え手伝われる兄なんていねーよ! ほら、さっさと出てけ!」 からかうリシュの首根っこを掴み、ドアの方へと押しやった。 「あーん、お兄ちゃんの意地悪」 「ふふッ! じゃ、サイトさん、また後で」 シエスタと一緒にリシュが退室してから、俺はもう一度確認する。 「そうだった、俺には妹がいたんだっけ。……うん、そうだった」 「みんな、おはよう! 朝のホームルームを始めるぞ」 今日も学校に登校。教室に矢的先生が入ってきて、ホームルームを開いた。 そう言えば、昨日はルイズとキュルケの仲を取り持つための手段に、ミスコンでの勝負を 持ちかけたんだったな。ひと晩明けて、その二人はどうしているか……そっと目を配らせる。 ルイズは特に変わりなし。……いや、昨日よりも何かツーンとした顔してるように見えるのは、 俺の気のせいか? キュルケはキュルケで、先生の話を聞きながら爪の手入れをしている。ちゃんと聞けよ、たまには。 「えー、今日の連絡は以上だ。それから……みんなも聞いてると思うが、近々、学園伝統の ミスコンテストが開催される。そして、このクラスから何と二人も立候補者が出た!」 先生がちょうどミスコンの件に触れた。 「一人はキュルケ」 「はぁい」 「もう一人はルイズだ」 「はい」 二人の名前が呼ばれると、クラスがざわめいた。まぁ、当然か。転校してきたばっかの ルイズがいきなりミスコンだもんな。しかもキュルケ相手に……。 「ほら、静かに。同じクラスの仲間だ。当日、どっちに投票するかは別として、平等に応援 してあげるように」 それを最後に、先生のお話しは終わりとなった。 「じゃあ、これでホームルームはおしまいだ。一時間目の支度をするように」 ホームルームが終わってすぐ、落語、スーパー、ファッション、博士の四人組が話をする声が聞こえた。 「なぁ、どうする? どっちに投票する?」 「そりゃキュルケだろ。他に誰が立候補するのか知らないけどさ、あのスタイルだぜ? どう見たって決まりさ」 「そうかしら? あたしはルイズさんに投票するわよ! 女の子からしたら、ルイズさんの方が 好感持てるわ」 「僕もだよ。キュルケさんはちょっと派手すぎるし、授業に不真面目なところがあるからね。 その点ルイズさんは、静かにしてたら清楚だからね」 「だよな。俺もルイズに一票!」 ……へぇ。正直、勝負になるか若干不安でもあったけど、ルイズも案外いい線行きそうだな。 けど……男がルイズをもてはやすのを聞いてると……何か面白くないな。妙にイライラするというか……。 何なんだよ、この気持ち……。 どうにももやもやしていたら、先生が教室からの去り際に、俺に呼びかけた。 「あッ、そうだった。平賀、放課後に少し残っててくれ。先生から、少し話がある」 「えッ? はい……」 先生から話が? また何か面倒事でも引き受けさせられるのだろうか……。 放課後。教室に残った俺の側には矢的先生と、何故かルイズとキュルケがいる。どうしてこの二人が ここに……。この組み合わせは大体ろくなことにならないから、今から何事があるものかと不安でならない。 「平賀、まずは聞いてくれ。今朝も触れたミスコンテストなんだが、実は立候補をする場合、 必ず推薦者を立てる必要があるんだ」 「はぁ、推薦者ですか」 「簡単に言うと、その立候補者を応援する人の代表だな。ある意味、最大の責任者といえる」 そんな重要な役割の話を、俺にするってことは……。 「あのー、まさかとは思うんですけど。俺が……それに選ばれたんですか?」 「そういうことなんだ」 「やっぱりですか! ど、どっちのですか!?」 聞き返すと、先生はすごく困った顔を作った。 「そこが問題なんだがな……」 「え?」 「ルイズとキュルケ、その両方がお前を推薦者に指名してるんだよ」 えッ、えええぇぇぇぇぇ!? り、両方が俺をぉ!? キュルケが目くじらを立ててルイズに視線を向けた。 「困っちゃうでしょ? ルイズったら、図々しいんだから」 それに言い返すルイズ。 「どっちがよ! サ、サイトは、あ、あんたのものじゃないんだからね!」 俺は喧嘩腰の二人の間に割って入った。 「待て待て待て! 何で俺なんだよ、しかも二人そろって!」 「わわわ、わたしは別にあんたを選んだ訳じゃないんだからね! ほ、他にいないから、 仕方なくなんだからね!」 そっぽを向いたルイズと対照的に、キュルケは俺にすり寄る。 「あたしはその点、ダーリンしかいないって思ってお願いしてるのよ?」 「……とまぁ、見ての通り、二人は本気でお前を指名してるんだ」 先生が再度口を開いた。 「しかし、推薦者の役割を考えれば当然のことだが……一人が二人の推薦者を兼任した前例はない」 まぁ、そうだろうな。優勝者が一人だけの以上、二人の応援の代表になるなんてありえないよ。 「こうなった場合は、どっちかに譲ってもらわなくちゃならないんだが、二人ともそのつもりは ないの一点張りだ」 「当然です」 「ツェルプストーに譲るものなんてありません!」 どうしてこういういらない時だけ気が合うんだよ、お前たちは……。 「それで、平賀自身にどっちかを選んで、それで決めようということになったんだ」 「お、俺が決めるんですか!?」 「他に適任はいないだろう?」 か、勘弁してくれよ! 仲直り作戦が本当に上手くいくのかどうかも心配なのに、しょっぱなから 俺を振り回そうだなんて! 何で俺、こうやってどこまでも巻き込まれるんだよ! 「それじゃあ、平賀。ルイズかキュルケか、正直な気持ちで選んでくれ」 そ、そう言われても……どっちを選んだとしても、余計に大変な思いをするのは避けられ なさそうなんですが……。 「これ……辞退するってのはなしですかね……?」 先生にひそひそ問いかけると、先生は眉をひそめて却下した。 「それはちょっと駄目だな。二人とも、真剣にお前にお願いしてるんだ。それでどっちも 選ばないんじゃ、二人とも納得しないだろう。どっちかの推薦者には必ずなってくれ」 うそー! 逃げ場なしかよ! そ、それじゃあ……。俺はひどく悩んだ末に、先に頭の中に浮かんだ顔の方を選択することにした。 「ルイズを……」 言いかけたその時、キュルケが俺の腕を掴んで、ぐいっと自分の方へ引っ張った! 「ああん、手が滑っちゃった」 「おぶッ!?」 そのまま俺の顔が、キュルケの胸に谷間に押しやられた! ぐぐッ……口がふさがれて声が出せない……! 「ち、ちょっとキュルケ!? 何で手が滑ったらサイトを抱きしめることになるのよ!」 「おいおい、キュルケ! 平賀が意見を言えないぞ。放してあげなさい」 「あら、そうですわね」 キュルケは俺を放しながらも、身体をぴったりとくっつけ、胸を押し当ててくる! 「それで、ダーリン? さっきは何と言いかけたのかしら? も・ち・ろ・ん、あたしの名前よねぇ?」 「えッ、あッ、そ、その……!」 と、とっても柔らかい感触が俺の思考をかき乱すが……それ以上にキュルケからの異様な 圧力を感じて、回答できなかった。ここで下手なこと言ったら、後が怖そう! ルイズがキュルケを非難する。 「卑怯よキュルケ! 強引に自分を選ばせようとしてるんでしょ! そうはいかないんだから!」 「あーらぁ、何のことかしらぁルイズ? 言いがかりはやめてちょうだい!」 互いに詰め寄ったルイズとキュルケがぎゃんぎゃんと言い争う! け、結局こうなるのかよぉ! 「やめろ、お前たち! こんな調子じゃ、いつまで経っても終わらないぞ!」 先生が制止しようとするけれど、対抗心に火が点いた二人はさすがに簡単に止まりそうにない。 ああもう、どうしたらいいんだよぉ!? 俺が思わず天を仰いだその時……突然教室を大きな揺れが襲い、俺たちはバランスを崩して 転げそうになった。これにはさすがのルイズたちも驚いて、口論を途絶えさせる。 「い、今の揺れは……!」 「このパターンって……!」 嫌な予感を覚えた俺が窓の外に目を向けると……風景の地面が下から砕かれ、その中から 一体の大型怪獣が地上に這い出てきた! 「キャアアアァァァ!」 全身の皮膚がデコボコとしていて、肩から細長い触手のようなものを生やしている。キノコみたいな 菌類が動物になったかのような怪獣だ! 端末のデータによると、名前は……オイル怪獣ガビシェール! 「怪獣だ! みんな、早く避難を!」 先生は怪獣の姿を目にすると、即座に俺たちの避難誘導を始めた。そんな中で、俺はガビシェールの 情報をもっと確認する。 「オイルを求めて暴れ回る上、満腹になったらなったで破壊衝動に目覚めて辺りを破壊し尽くす 危険な怪獣だ! ……でも、何でそんな奴が何の変哲もない市街地にわざわざ現れたんだ?」 もっとオイルがありそうな場所……油田とか空港とかに現れそうなものだが。 『今はそんなこと考えてる暇はないぜ! 才人、変身だ!』 「ああ、そうだった!」 ゼロに促され、俺はこっそり先生たちから離れると、人のいない場所でウルトラゼロアイを装着! 「デュワッ!」 変身したゼロが、ガビシェールの前に立ちはだかって街を守る! 『よぉし、行くぜぇッ!』 「キャアアアァァァ!」 戦闘開始するゼロとガビシェール! まずはゼロの先制パンチが決まる! 「セアァッ!」 ひるませたところで素早く相手の腕を捉え、一本背負い! 『うらぁぁぁッ!』 「キャアアアァァァ!」 出だしからいい調子でダメージを与えたゼロだが、ここでガビシェールからの反撃が来る。 奴の口から一本の管が伸び、そこから火炎放射攻撃が繰り出されたのだ! 『ぬおッ!』 火炎をまともに食らったゼロが、皮膚をあぶられて苦しんだ。オイルを食らう怪獣だけあって、 吐き出す炎の熱量はそこらの奴とはひと味違う! 『けど、まだまだこんなもんじゃないぜ! ふッ!』 ゼロは持ち直すとウルトラゼロディフェンサーを展開し、火炎を遮断。その一瞬の隙に 敵の懐に飛び込んでいった。 「セェェェアッ!」 「キャアアアァァァ!」 ゼロのチョップ、キック等の連撃がガビシェールに叩き込まれていく。ガビシェールも 腕を振り回して反撃してくるが、ゼロは相手の打撃をその都度いなす。 ガビシェールはこの前のアブドラールスとは違って、格闘能力はそこまでのものではなかった。 インファイトだったら、ゼロに大きな分がある。この勢いだ! 『よしッ、このまま勝負を決めるぜ!』 ガビシェールを十分に弱らせたところで、ゼロが左腕を横に伸ばし、とどめのワイドゼロショットの 構えを取った。 「キャアアアァァァ!」 しかしその瞬間を狙ったかのように、ガビシェールの口の管が先ほどの比ではないくらいに 長く伸び、ゼロの首に巻きついた! 『何ッ!? くッ、しくったッ!』 「キャアアアァァァ!」 ガビシェールは管を引っ張ることで、ゼロを滅茶苦茶に引きずり回す! 首を絞められて 上手く力を出せないゼロは抵抗できない! 『ぐおぉッ!』 赤く点滅して鳴り出すカラータイマー。くッ、前半飛ばしすぎたか! 「がんばれー! ウルトラマーン!」 「立って! ウルトラマーン!」 この窮地に、学校の方から応援の声が届いた。 見れば、博士たち四人がルイズらと一緒に応援してくれている。あいつらもまだ学校に残っていたのか。 「がんばれー! ウルトラマンゼロー!」 「俺たちの、ウルトラマンゼロ……」 けれど、途中でその応援の叫び声がしぼんでいった。ど、どうしたんだ? 「みんな、どうして途中で応援をやめるの?」 ルイズも疑問に思ったようで問いかけると、落語、スーパー、ファッション、博士の順に答えた。 「……なーんか、違和感があるんだよな」 「うん、何かが違うような気がしてならないんだよなぁ」 「そうよね。あたしも前々からそう感じてるのよ」 「上手くは説明できないんですが……どうもしっくり来ないというか、これが正しいのか? みたいな気がするんですよね」 おいおい! 何かひどいこと言われてるよ! 何かが違うって……どういうことだ、一体! 『気にしてる場合じゃないぜ! こんなもんじゃ、俺は負けねぇッ!』 どうにも煮え切らないが、それでもゼロは発奮し、反撃に転ずる。額のランプからエメリウム スラッシュを放ち、ガビシェールの管を撃ち抜いた。 「キャアアアァァァ!」 管が根本から弾け飛び、これでゼロは自由となった。よし、流れをこっちに戻したぜ! 「シェアッ!」 ゼロは更にゼロスラッガーを投擲し、ガビシェールの肩の触手を同時に切り落とした。 肉体の部位を失っていくガビシェールはみるみる力も失う。 そこにゼロが、今度こそとどめのワイドゼロショットをお見舞いした! 『これでフィニッシュだぁぁぁぁッ!』 「キャアアアァァァ!」 ワイドゼロショットは綺麗にガビシェールに決まった! 直撃を受けたガビシェールは 前のめりに倒れ、そのまま完全に動かなくなった。 「ジュワッ!」 今回も無事に怪獣をやっつけたゼロは、大空に飛び上がってこの場から去っていった。 怪獣のことはそれでいいんだが、平賀才人の方の目下の問題は何の解決にも至っていない。 ルイズとキュルケはその後も、俺がどっちか片方の推薦人となることを頑として認めなかったのだ。 その末に、矢的先生は言った。 「分かった。それじゃあ仕方ない。特例として、平賀を両方の推薦人とすることを認めよう」 「認めちゃうんですか!?」 「このままじゃいつまで経っても話は平行線だし、ミスコンは生徒主導の行事だ。その生徒の希望に、 僕は先生として出来得る限り応えるとしよう!」 と宣言する先生。半ばやけっぱちになってませんか!? 「平賀、二人分の推薦人は大変だとは思うが、ルイズとキュルケ、平等に応援してあげてくれ」 「えええ……」 これから先が思いやられて心労気味な俺に、キュルケが囁きかける。 「大丈夫よ、ダーリン。あたし、あなたの応援があれば、こんな平面な子に負けたりしないわ」 それに噛みつくルイズ。 「そ、それは、こ、ここ、こっちの台詞よ! ああ、あんたみたいに、男漁りしか取り柄の ない人に負けたりしないんだから!」 「……言ってくれるじゃない」 「……」 互いの間でバチバチと火花を散らす二人。まだ始まってもいない段階でこれなんて、本当に この先どうなっちまうんだよ……。 ああ、俺は生きてミスコン開催日を迎えられるんだろうか。ゼロは快調に活躍してるというのに、 俺の方は何でこんなことになってしまうんだぁー……! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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食事を終えて教室に移動する 生徒達は各々横に自分の使い魔を置いて授業の準備をしている ルイズも机に座り準備を始めた シュヴルーズは生徒達にお復習のつもりで淡々と魔法の四元素説明していく そしてそれぞれの元素をマスターする事によってドットからライン、トライアングル、スクウェアとランクを上げていく事も、魔法が無い世界の住人であるロムも理解することが出来た 「ではこの魔法を実際に・・・・、ミス・ヴァリエール、貴方にやってもらいましょう」 「ふぇ?私ですか?」 ルイズが指名された途端、教室がざわめき始める。 (なんだ?急に部屋の空気が・・・・) ロムが疑問に思う頃にはルイズが席から立ち上がり教壇に向かおうとする 「ルイズやめて、お願い」 キュルケが青い顔をしてルイズに言う 「成功させれば文句無いでしょ」 「でも貴女はゼロ・・・・」 「皆さん冷やかしはお止めなさい、ではミス・ヴァリエール宜しくお願いします」 この会話を聞いていたロムは閃いた (ふむ、どうやらゼロという理由がこれでわかるらしいな) 教壇に立ち、呪文を唱え触媒に杖を向けるルイズ。 その時、触媒が爆発し周りのものがぶっ飛んだ。 煙が明けるとシュヴリーズは気絶しており、ルイズはは真っ黒になりながらも平然と立っていた 「ちょっと・・・・、失敗しちゃった見たいね」 ルイズがそう言うと周りからブーイングが起こる 「何をやっているんだよー!」 「だからゼロのルイズにやらせたくなかったんだ・・・・」 「魔法の成功率ゼロのルイズ!これどうするんだよら!!」 (ケホッケホッ、成る程・・・、だからゼロなのか) ロムは納得した 「マスター、これで終わりだ」 授業の後、二人は罰として教室の片付けを命じられた ロムが言われるがままにテキパキと仕事をこなしたので思ったより早く終わった「あ~も~どうしていつも失敗しちゃうのよ!」 「マスターそんなに癇癪を起こすな。次は失敗しないようすればいいじゃないか」 「それが出来れば苦労してないわよ!」 どうやらそれなりに自覚はしているようである 「は~あ~、こんな事じゃ何時までゼロって呼ばれるわ・・・・、私これからどうなるんだろ・・・・」 そういってもう一つ深いため息をつく そんなルイズを見てロムが下を向いて語り始めた 「どんな夜にも必ず終わりが来る。」 突然雰囲気の変わったロムに驚くルイズ 「闇が溶け、朝が世界に満ちるもの・・・・、人、それを黎明と言う」 「な・・・、何言っているのあんた」 「つまりそういうことだ。今は後先が見えぬ状況でも、必ずそれを打破するきっかけが見つかるものだ。 今日の失敗を乗り越え、明日の成功の為に努力する。 それは魔法使いにでも言える事じゃないのか?」 「・・・・・・・・」 顔を上げて微笑むロム、確かにそうだ 今日失敗した事を明日の成功の為に反省すればよい。 確かにそうだ、確かにそうだが・・・・ 「あんた・・・・」 「ん?」 「ご主人に何説教しているのよー!!!」 「なっ・・・・!」 ルイズが突然の怒鳴り声に驚くロム、確かにロムの言っていた事は筋が通っている しかし自分は貴族。 ロムは平民でしかも自分の使い魔。 使い魔に説教される貴族なんて末代まで言えぬ恥である。 ロムは無意識にルイズのプライドを傷つけたのであった。 「あんた、今日一日ご飯抜きよ!でも雑用はしっかりやってもらうからね!」 そういうとルイズは真っ赤な顔で教室から出ていき、ロムだけが残された。 (う~む、前の戦いから取り入れたエネルギーは今日の朝のみ、その量も多いとは言えない。 流石に今日一日はキツいな) そんな事を考えながら食堂の前を通り掛かると 「あの~」 「ん?」 「今お一人でしょうか?」 後ろを向くとメイド服を着た少女、シエスタが立っていて自分に語りかけた 「ああ、一人だ」 「じゃあ厨房に来てくれませんか?料理長が呼んでいますので」 (料理長?何故俺に用があるんだ?) 不思議に思いながらもシエスタに連れられ厨房に付いたロム 「マルトーさーん!連れてきましたよー!!」 「おおー来たかー!そこのテーブルに座らせてやってくれ!!」 「はーい!では、ちょっと待っててくださいね」 言われるままに待っているとシエスタは焼き立てのパンと湯気のたったスープを持ってきた 「これ、食べてもいいのか?」 「はい、私達の賄い食の余りですがどうぞ」 ロムの質問に微笑みながら答えるシエスタ、この世界に来て初めて人の心の暖かさに触れた気がする 「有難い!では、いただくとする」 そういうと綺麗に食べて行くロム、うん、これこそ究極のパンだと心の中で頷く 「いやーいい食いっぷりだね兄ちゃん!全く俺はあんた見たいな人に飯を作りたいよ!!」 奥から男が現れる 「俺は料理長のマルトーって言うんだ!宜しくな!!」 「俺はロム・ストール、貴方がこの料理を?」 「ああそうだ!」 「感謝する」 ロムが礼を言うとマルトーは笑う 「わっはっは!いいって事よ!同じ平民じゃねえか!」 「平民?じゃあここにいる人達は皆?」 するとシエスタが答える 「はい、皆貴族様にご奉仕する為にここで働いているのです。 でも昨日平民が貴族様の使い魔になったって噂になったから皆心配だったんですよ」 「案の定シエスタがあんたが貴族どもの横で床下に座りながらパンにかじりついていたのを見ていてよ、それを聞いた俺は頭にきていたんだ!」 ロムはそのパンを作った人間が誰かを聞こうとしたがやっぱりやめた 「いや~それにしてもあんた立派な鎧を着ているな!」 「どこかの騎士だったのですか?」 「いや・・・・まあ、そんな感じだ」 異世界から来たなんて信じられないようなので言わないでおく 「それより、食事の礼をしたいのだが」 「そんなのいらんいらん!」 「いや頼む、一応の礼儀は突き通したいのだ」 「じゃあお皿を並べてもらいましょう。もうすぐお食事の時間ですし」 厨房から出ると授業を終えた生徒達が食堂へと入ってきて、その中で長いテーブルの上に黙々と皿を並べていくロム そこへ金髪の少年がバラをくわえながら複数の取り巻きと共に入ってくる 「なあギーシュ、結局君の彼女は一体誰なんだ?」 「ふっ、僕の心の中には特別な女性なんかいないよ。それぞれが僕の花なんだ」 ギーシュがギザっぽく取り巻きの一人の質問に答える するとギーシュのマントから紫色の小瓶が落ちる 皿並べを終えてシエスタと共に厨房に戻る途中のロムがそれに気付き拾う 「君これを落としたぞ」 ロムが声をかけられギーシュが振り向く、 (あ!この男昨日の!昨日はよくも・・・・ん・・・・?) ロムの持つ小瓶に気付くと顔に焦りが表れ始める 「君、それは僕のでは無いよ、勘違いしていないかい?」 「いや、確かに君が落としたものだ」 (ちぃぃぃぃ!平民を本気で殴りたいと思ったのは始めてだ!) 「あっ!その紫色の香水はモンモランシーが特別に調合したものじゃないか!」 「っということは本命はモンモランシーか!」 ギクっ!と焦りが更に顔に表れる そして横を見ると可愛らしい栗毛の女の子が涙を目に溜めてギーシュを見つめていた 「ギーシュ様、やはり貴方はあの人と・・・・」 「ち、違うんだよケティ。僕の心には何時も君が・・・・」 ばちん、と音がしてギーシュが頬を赤く腫らした後「さようなら」っと言って少女が走り去って行く 「まっ待ってケティ話を・・・・」 ギーシュが追おうとすると・・・・ 「待てぃ!!!」 「!!!???」 ギーシュと取り巻き、それにロムとシエスタが声の出場所に向くと強烈な光がありそこに誰かが立っていた 「一つの恋を通さず、平気で別の恋をする不純な気力。 人、それを『浮気』という・・・・」 「誰だ!?」 「貴様に名乗る名前は無い!!」 光が消えるとそこに立っていたのは腕を組んで鬼の様な形相をしたカールが目立つ少女であった・・・・ 「げぇ!モンモランシー!ちっ違うんだよこれは・・・・」 「あんたやっぱり他の女の子と会ったのね!喰らえ!乙女の怒り!彗星脚!!」 「がふう!」 モンモランシーの踵落としが炸裂する、ギーシュは無惨にも床に叩きつけられた そして少女は去っていく 「す、凄かったですね・・・・」 「・・・・・・・・何なんだ一体」 あまりの気迫にロムとシエスタは固まっていた、特にロムは色んな意味で固まっていた・・・・ 「とっとにかく厨房に戻ろう」 「待ちたまえ!」 一声出して立ち上がるギーシュ、凸は真っ赤になっている 「君のおかげで二人の女性の名誉が傷ついてしまった・・・・、どう責任とっつくれるのかい?」 どう考えてもお前が傷ついている 「それは君が浮気をしていたから悪いのだろう」 あっさりしたロムの反論に周りが肯定する 「ふっ・・・・、平民がこの僕に・・・・、よし、決闘だ!」「何・・・・?」 周りが突然ざわつき始める 「お待ち下さい貴族様!貴族同士の決闘は禁止されています!!」 シエスタがなだめるが 「これは貴族の決闘ではない。貴族と平民の決闘だよ。互いの名誉を賭けたね さあどうする?」 「・・・・・・・・」 果たしてロムは決闘を受けるのか!? (それにしてもモンモランシー、いつあんな魔法を覚えたんだ?)
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前ページ次ページゼロの戦闘妖精 Intermission 02「ざ・らいとすたっふ」 母親から提案された『実技試験』のために、ルイズはデルフリンガーを雪風に装備した。 「今度は、伝説の『烈風』殿と対決か。まったく 嬢ちゃんといると、退屈してるヒマが無ぇな!」 「デルフ 何を期待してるのか判らないけど、たぶん 貴方の出番は無いわ。あくまで『保険』よ。 むしろ 出番があったらマズイの。」 「そりゃまた どーして?」 「今回は 『逃げ』に徹するから、グリフォン隊の入隊試験の時と違って相手に突っ込んでいく事は無いわ。 だから 攻撃魔法は後方から私達を追いかけてくる型になるハズ。 仮に スクエアスペルのカッター・トルネードを使われたとしても、竜巻自体の移動速度は雪風よりも遅いから まず届かないと判断していい。 流石に雷撃は雪風よりも速いけど、ライトニング・クラウドは 前段階で雷雲を発生させなきゃならないから、高速飛行中に使うのは無理だし。」 「そりゃそーだ。雲なんざ 吹っ飛はされちまうからな。」 「怖いのは、魔法よりも剣ね。 お母様は 全速力で逃げる飛竜の騎士を 追いかけて斬った事があるっていうし、私もお母様の全力飛行って 見たことが無いの。 ねぇデルフ、貴方から見て お母様ってどうだった?雪風より速いなんて事が あると思う?」 「さーて、どうかねぇ。判るのは 両方とも『すんげぇ速ぇ!』って事までだ。どっちも 常識ってモンの範疇を越えちまってるからな。 俺っちに そんな事を聞くのは、十までしか数えらんねぇガキに 千や万単位の数字の大小を比べろってぇのと同じだぜ。」 「あ~あ。貴方の『六千年の記憶』でも、データ無しか! もうイイわ。此処まで来たら 雪風を信じるしか無いんだから。」 ヴァリエール邸から 一騎の幻獣と一機の航空機が飛び立つ。 羽ばたき飛行のグリフォンは、垂直離陸も可能だが、カリーヌは騎獣を滑走させ 更に水平飛行で速度を稼いでから一気に上昇した。 雪風も、自重を上回る最大推力をもって 離陸直後から垂直上昇に移行、先行したグリフォンを追い抜き 十数秒で予定高度に到達した。わずかに遅れて グリフォン到着。 「では 始めましょう。」 ルイズから渡された フライトオフィサ用のインカムで カリーヌが宣言する。 同時に エアハンマーが雪風を襲う。通常の三倍速いといわれる、『烈風』アレンジ版のエアハンマーだ。 それを 爆発的な加速で回避する雪風。そのまま 設定空域の周回飛行に入る。 〔ひょえー。こないだより 一段と速ぇな!〕 (そうね。今回は 速度リミットをいつもより高めに設定したから。 それでもまだ 全開には程遠いけどね。ソニックブームとかも危ないし、せいぜい亜音速域までよ。 さて この後何も無ければいいんだけど。) カリーヌは ルイズを信じていない訳ではなかった。 一般に言う『風竜よりも速く飛べるものは無い』、それは間違っている。自身 風竜よりも速く飛んだ事もある。 だから それを想定した速度で飛んでいるつもりだった。 甘かった。あれは、『風竜を追い抜く事ができる速度』等ではない。『風竜を置き去りにする速度』だ。 だが まだ追える。問題は アレが使い魔の全速ではないだろうという事だ。 「まさか、この呪文を使う事になろうとはな。」 それは 彼女のオリジナル、超高速飛行の呪文だった。 《マスター:警告》 コクピット内のルイズに、緊張が走る。 (何、雪風?) 《ターゲットα、後方50メイルまで接近。》 (来たわね。) 〔おいっ、ウソだろ?相棒!〕 デルフリンガーと違って、ルイズはこのくらいでは驚かない。予想範囲内だ (ターゲットαとの距離は現状で固定、引き続き詳細な情報収集と解析を実施。) 《RDY 現在までに判明の事項 ・ターゲットαは 何らかのフィールドを形成して空気抵抗を低減。 (タバサ・シルフィードのデータから類推) ・フィールドの一部に吸入口を作り、それを後方に噴射して推進力を増加。 (空間受動レーダーにより確認)》 (つまり 魔法式のジェットエンジンね。 でも、複数の魔法を同時に使うなんて、普通 出来ないわ。 確かに お母様は普通じゃないけど、それにしたってコモン・マジックと簡単な魔法程度が限度のハズよ! なのに、特殊形状の結界と 大出力の風魔法だなんて…) 《マスター:推測 複数の効果をワンスペルで発動させる 自作魔法である可能性。》 (なによそれっ、やっぱりバケモノだわ!!) 上空で繰り広げられる 前代未聞の追いかけっこ。それを中庭から見物しているヴァリエール家の皆様+1。 デッキチェアに日傘付きテーブル、ティーセットに茶菓子も用意されている。 「お母様、相変わらずお元気ねぇ。」 「うむ。あれほど楽しそうなカリーヌを見るのは 久しぶりだな。」 「非常識よ、どっちも!」 「…同感です。」 誰も 慌てる様子はない。家族の奇行など もう慣れっこである。 「ときにワルド君、」 「何でしょう?」 「ちょっと 頼まれてくれないか…」 風の結界が 激しく震える。 重い。風が、深き水 いや水銀の如く重い。 精霊にすら許されぬ速さ この重さは禁を犯す者への戒めか? 否、断じて否! 新たなる世界への道は 常に厳しい。それを乗り越えられる者だけに 祝福は与えられる。 あの使い魔は 追えば追うほど速くなる。やがては『風が壁になる領域』に突入するだろう。 カリーヌ本人ですら、若き日に数回だけ感じる事の出来た世界に。 《マスター:要請 現在 時速750メイル。速度リミット上限。ターゲットα、なお加速中。リミット解除の要あり。》 (ソニックブームの ターゲットαに対する影響は?) 《確率80パーセントで、結界フィールドのため 身体に影響無しと推定。》 (分かったわ。リミッター再設定、上限値マッハ1.2、音速突破!) 《RDY》 ルイズの使い魔が また速度を上げた。 既に 風が壁となって立ち塞がる領域。そこから、ああも易々と加速する・・・素晴らしい! カリーヌは魔力を振り絞って それを追う。 今こそ理解した。あの使い魔『雪風』は、この先の世界を飛ぶためのものだと。 前方で「ドーン」という音がした。雪風が『壁』を突き破ったのだろう。「ならば」と、カリーヌも掛け値なしに全力を魔法に注ぎ込む。 結界がバラバラに砕け散るような轟音と振動、それでも強引に加速、 「まだよ、まだっ! あと少しぃい!!」 そして、唐突に『音』が、消えた。 それは、大嵐を脱した船の前に現れる 凪の海。いや もっと神々しい世界。静寂と光の空。 ハルケギニア有史以来 此処にたどり着けたメイジは 何人いるのだろうか。 恐らく 十指を満たす事はないだろう。 それゆえ 語られる事も無く、音速の概念のない社会では 想像もされなかった『超音速の世界』。 「(あぁ 私は再び 此処まで来れた・・・)」 公爵夫人は そう思いながら意識を失った。 《ターゲットα、失速。急速降下。》 (えっ 大変。雪風 急いでお母様のところへ!) 雪風が引き返して来た時、カリーヌの元へは マンティコアに二人乗りしたヴァリエール公とワルドが到着していた。 まず ワルドが精根尽き果てたグリフォンをレヴィテーションで支え、公爵がそれに移乗。妻を抱えてマンティコアに戻る。 替わってワルドがグリフォンに騎乗すると、本来の主人が乗った事で 愛騎の気力も僅かに回復、自力で屋敷まで戻ることが出来た。 「さすがですね、ヴァリエール公。こうなる事を見通してらっしゃったとは。」 「カリーヌは若い頃から、物事に集中すると自分の限界を超えても気付かないタチだったからな。 それと、他の『伝説』に紛れて 余り知られていないが、トリステイン最速騎士の記録保持者も彼女なのだ。 むきになって張り合うだろう事は すぐに予想できたよ。」 「なるほど。自分の娘であっても トップを譲る気は無かったと言う事ですか!」 「そんな事はありませんよ!」起き上がるカリーヌ夫人。女性は、悪口と噂話に敏感である。 「私は、久しぶりに『あの世界』へ 行ってみたかっただけです。」 着陸した雪風からルイズが、屋敷の方からエレオノールとカトレアが駆け寄ってくる。 「お母様 凄い、凄すぎます! 生身で音速を突破するなんて!!」 ルイズが驚嘆の声を上げると、 『音速?』 ハモるカリーヌとエレオノール。 「はい。お母様には判っていただけると思いますが、あの直前まであった『壁』は、空気の壁と同時に『音』の壁だったんです。 音は一瞬で遠方まで伝わりますが、如何に速くとも ゼロ時間ではありません。 落雷の際 雷光よりも雷鳴が遅れる事をお考え下さい。それが 音の伝わる速度です。 音は 上下前後左右いずれの方向にも伝わりますが、物体が音速に迫ると、自ら出して前方に伝わる音は圧縮され 壁となります。 その壁を突き抜けた先に現れるのが、『超音速領域』なのです。」 「そうですか。それゆえに あの世界はあれ程 静かなのですか。 あれこそが、雪風という使い魔の 本来の領域なのですね。」 「そうです。でも、あれはほんの入り口。 雪風を召喚して間もない頃、一度 全速力で飛ぶように指示しましたが、身体への危険性を理由に拒否されました。 パイロット用抗Gスーツと言う 異世界のアンダーアーマーのような服を 私のサイズに仕立て直して着用しなければ 命にかかわるとの事です。 ですが、マッハ2.0ぐらいまでなら、高機動しなければ何とかなります。 お母様、今度は雪風の後部席にお乗りください。私と共に その先の世界を御覧下さい!」 「ええ、喜んで。」 そう言って立ち上がる母。さすがは『烈風』、魔力は使い果たしても 体力には余裕あり。昔とった杵柄か? だが、 「待ちなさい おチビ!少しはお母様の御身体のことも考えなさい。 私が先に乗るわ!」 「大姉様!?」 エレオノールが 雪風に乗ると言い出した。 「『音速』ねぇ? 面白い考え方だわ。アカデミーで研究する価値は 充分にあるわね。 ならば、研究員として 実際に体験しておかなくては!」 「じゃあ その次は私ね。」 「ちい姉様まで!」 身体の弱いカトレアまでが、まさかの搭乗希望。 「だって、あんなに楽しそうに飛んでいるんですもの。 なにも さっきみたいな無茶な飛び方じゃなくて、ゆっくりでいいの。 できるでしょ、ね 雪風ちゃん。」 ついに『ちゃん』付けである。カトレアさん、肝の据わり具合も凄い! ともあれ、末娘の風変わりな使い魔は、ヴァリエール家女性陣からは すっかり受け入れられたようだった。 どうやら、交代で乗る事になり 順番を決めるのにモメているらしい。 その様子を見ながら、ワルドが問う。 「ヴァリエール公、貴方は お乗りにならないのですか?」 「そうだな・・・いや やめておこう。 ワルド君、正直なところ 私はアレが怖いのだよ。 召喚したルイズをあれほどに変えてしまい、カトレアに一目で気に入られ、エレオノールの興味を強く引き付ける使い魔。 ついには、カリーヌすら凋落させた存在。 ひょっとしたら アレは、魅了か幻惑の魔法のかけられた 呪いのアイテムではないのか。 アレに乗ったりすれば、私もその術中に嵌ってしまうのではないか。そんな気がしてね。」 宮中での堂々たる態度からは想像できない 戸惑うヴァリエール公爵。 それは 家族を心配する、夫であり父である『男』の姿。 ワルドは、早世した自分の父の おぼろげな記憶を、公爵の姿に重ねていた。 「確かに雪風は 不明な部分が多いのですが、あれは 魔法無き世界で造られしもの。 呪い云々があるとは思えませんし、もしそうであれば、先程エレオノール様が気付いていた事でしょう。 ルイズも言っておりました。『雪風は武器』と。 邪なるモノが用いれば悪魔となり、心正しく使うなら 救国の英雄とも成り得る。 『伝説の武器』の逸話としては、まぁ ありがちなところでしょう。」 とりあえず納得した ヴァリエール公。が、ある事を思い出す。 「そういえば君は、『伝説のルーン』がどうかしたと言っておったな。」 「ええ。実は、雪風の翼に刻まれたルーンなんですが、これが 始祖の使い魔が一つ、『ガンダールヴ』のルーンらしいのです。」 「なん だと!」 「トリステインが未曾有の国難を迎えようとする この時期に、伝説のルーンを持つ使い魔が召喚される。これは果たして偶然でしょうか?」 「子爵、君も 開戦は避けられぬ、と。」 「はい。主流派の唱える『アルビオン封じ込め策』は、確実に失敗します。我々だけでも 準備はしておくべきでしょう。」 「だが、残された時間は あまりに少ない。」 「そして もう一つ。 唯の可能性 私の考え違いという事ならよいのですが… 始祖の使い魔を召喚する事が出来るメイジ、さて その系統は一体何なのか。 どう思われますかな?」 「まさか!」 「確証はございません。しかし 状況証拠は揃いつつあります。 公爵様、もしもの際は どうかお覚悟を。」 公爵から 返事は無かった。 結局 雪風への搭乗順は、カトレア、エレオノール、カリーヌと決まったらしい。 次女と三女を乗せて 雪風が離陸する。 「娘達は あの使い魔の上で、どのような話をするのであろうか。」 「さぁ。我々の様な内容でないことは 確かでしょう。」 そして ヴァリエール公は、ワルドに深々と頭を下げた。 「ワルド子爵、娘を ルイズを宜しく頼む。 私は運命論者ではないつもりだ。だが この先ルイズは『運命』とやらに翻弄されるだろう。 頼む・・・ルイズを、助けてやってくれ。」 「ルイズは 僕の部隊の一員です。いかなる運命が待ち構えていようと、既に一蓮托生ですよ。 ですから これだけはお約束します。 『僕より先に ルイズは死なせません』。」 「判った。 では、無理を承知で もう一つ我儘を言わせてもらう。 『君も 死ぬな!』 たぶんルイズも、そう願うだろうから。」 そこまで言って ヴァリエール公は歩き出した。 「公爵様、どちらへ?」 「いや、『娘を頼む』というなら、あの使い魔殿にも話を通しておくべきであろう。 お~い エレオノール。次の順番 私と替わってくれんかー!」 (余談) この後 延々と『雪風試乗会』は続き、ガス欠となった雪風の為に、ワルドは 燃料タンクを抱えて学院まで往復するハメになった。 前ページ次ページゼロの戦闘妖精
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前ページ次ページゼロの魔王伝 ゼロの魔王伝――20 白々と輝く星と、淡い紅と朧な青の月光だけが光となる夜の闇に、岩礁にぶつかり砕ける波のような銀粉が散った。 三色の光に照らされ、刹那の時だけ眩く輝いた銀粉は、次の瞬間吹いた疾風に掻き乱されて、あえなく消え去る。 闇が衣と変わったようなロングコートの裾を翻す疾風はDという名前を持っていた。 神秘的な青い光を湛えたペンダントが、疾風さえも追い抜くであろう主の動きに乱れ踊る中、Dが一足飛びに跳躍した。 両手で握ったデルフリンガーを大上段に振り上げ、眼下に立つ自分自身同様に闇を傅かせた美貌の青年へと振り下ろす。 夜の帳さえも一太刀で裂くような一撃を、百条に及ぶ魔糸の斬撃の群れが受けた。 光の速さで指先に伝わる斬撃の威力に、魔糸の主である幻十は月輪を思わせる麗貌に氷から削り出したかの如く冷たい表情の仮面を被っていた。一太刀を防ぐために百条の魔糸を切断された幻十は果敢に追撃の手を放った。 刃を打ち合せた態勢で、二瞬ほど動きを停滞させていたDめがけて、前方より波涛の如く襲いかかる銀の光。 縦に放った千分の一ミクロンという細さの突き、無限長に伸びる魔糸を用いての斬撃の無数の組み合わせによって、D目掛けて襲いかかる魔糸総数二十条は、すべてが微細に異なる攻撃方法であった。 Dがデルフリンガーで風を貫きながら突きを放ち、最短距離を飛んできた一条の魔糸を絡め取る。刃毀れや錆の浮いた刃に不可視の魔糸を絡み付かせ、瞬時に手首を回す。 銀色の渦のようにデルフリンガーの刀身に絡み取られた魔糸が、Dの手首の動きに従順に従い、幻十の繊指の支配から逃れた魔糸は、他の魔糸達へと襲いかかり、Dと幻十との直線距離を覆うアーチの様に極細の死神達を追い払う。 絡み取った魔糸を、手首こねる動作で断ち切りながら、Dの足が大地に沈み、猛烈な反発の力を得て駆ける。 幻十は彼方にある木立に巻きつけた魔糸を引き、後方へ十メイル以上の跳躍を行いながら、神速で迫るD目掛け、左手を下方から掬いあげる様に振るった。同時に左手の五指全てが、百分の一ミリ単位で細やかな動きを見せる。 指一つとっても奇跡の産物の様な幻十の左五指は、あまりの動きの速さに霞んで見えた。放たれるはいかなる魔技か。そしてまた、迎え撃つDの剣はいかなる神業か。 Dが黒瞳を周囲に走らせ、上後方、全面百八十度、襲い来る五十以上の魔糸を認めた。 いずれも描く軌跡はこれまでのような、直線や弧ではない。 一本一本が意思を持った生物の様に、まるで一つの群れとなったかのようにDという獲物を駆り立てるべく縦横無尽に、じぐざぐと動き回り、螺旋を描き、多種多様に迫ってくる。 斬撃と数のみならず、描く軌跡と二色の月光のきらめきを利用した催眠効果を与える幻十の必殺を狙った攻撃であった。 Dの瞳が半眼に閉ざされた。視覚から脳髄に忍び入ってくる魔糸の催眠効果を遮断し、迎撃に、視覚を除く五感と直感に命運を委ねた夢想の剣が閃く。 右足を視点にその場で旋回し、それがどれほどの速度で行われたものか、コートの裾は刃の鋭さを得て襲い来る魔糸の幾本かを弾き返し、Dの体に淫らな意思を持った蛇の様に絡み付かんとする魔糸は、例外なくデルフリンガーの刃に迎え撃たれた。 Dの右腕が幻十の指同様に霞んで消える。迫る魔糸を迎え撃つDの剣舞もまた神速の領域へ到達したのだ。 魔糸を迎撃する中、Dは再びコートの内側から取り出した木針を幻十へと投じる。幻十の反応速度から言って、マッハ十前後で投じても迎撃されるのは火を見るよりも明らかであったが、わずかなりとも集中を崩さねば、反撃の一手を放つ切欠さえ掴めない。 魔糸の連続攻撃に神経を割いていた幻十の反応は万分の一秒遅れた。一万五千分の一秒の遅れであったなら、額を貫いた木針に脳漿をぶちまけられていただろう。 魔糸を操る指先はそのままに、体に纏っている防御用の魔糸『糸よろい』を数本外し、燃え走る流星となった木針の縦に両断し、その衝撃で木針はわずかな火の粉となって幻十の冷美な横顔をかすかに照らした。 Dは、思考を伴わぬ剣士としての本能に命運を委ねた夢想剣で、先程とおなじ迎撃手段を取った。 襲い来る魔糸のことごとくに刃を合わせると同時に刀身に巻きつかせ、デルフリンガーへと伸びる銀の筋が五十を越えると同時に、わずかに刀身の角度をずらして巻きとった魔糸を断つ。 「同じ手が二度も通じると思うのか?」 笑う幻十の声と同時、Dがその場上方へと跳躍する。切断し、幻十の指から離れた筈の魔糸が、断たれた事など知らぬとばかりに鎌首をもたげてDへと斬り掛かってきたのだ。 コートの裾を幾本かの魔糸に斬られたDは、空中で幻十の声を聞いた。 「コードレス・コード。糸は断たれても込めた殺意と技は残る」 その技の名を、かつて幻十と争った幼馴染もまた口にしたとは、幻十は知らない。しかし、断たれてなお襲い来る魔糸とはなんたる技か。 無論、幻十の指が直接操作していた時とは違い、単純な動作のみで、一瞬のみの発動とはいえ人間業ではあるまい。 跳躍し、空中の人となったDは、下で待ち受ける魔糸と前後左右から迫る魔糸を見ていた。 落ちるは斬撃地獄、待つも斬撃地獄。 漆黒のロングコートを、天界とのハルマゲドンに赴く魔王の如く広げ、Dがデルフリンガーを右下段に構えて空中でさらに飛翔した。 あろうことか後方から襲い来た魔糸の一本を足場代わりにしたのだ。タイミングを誤ればそのまま体を両断されかねぬ行為を、一瞬の躊躇いもなく行うのが、この青年であった。 そんな中、Dに握られたデルフリンガーは主の苦境とは別に恍惚の中にあった。それは一振りの刀剣としての歓喜であった。主の美しさにではなく、その技量への感動であり、かつてない高揚であった。 魔法によって知性を与えられたとはいえ、デルフリンガーの本質は剣だ。何かを斬り、誰かを斬り、何もかもを斬る道具だ。 道具としての自分の真髄をこの六千年の中で最も引き出し、使いこなし、振るっているのが今の主たるDであった。 刀剣としての自分をここまで完璧に使いこなし、これほどまでに鋭く、早く、重く、軽妙に振るい、壮絶な鬼気さえ纏わせた者は、これまでデルフリンガーを握ってきた者達の中にはいなかった。そう、かつてのガンダールヴでさえ。 なんという僥倖、数百年の退屈の果てにこのような出会いがあるとは、夢にも思わなかった。恐るべき使い手だ。凄さまじい剣士だ。称える言葉が思いつかぬほどの戦士だ。 ならば、そのような使い手に相応しい姿にならねばなるまい。 幻十めがけて跳躍するDの右手の中のデルフリンガーが、幻十の張った防御用の糸を天から地への一閃で斬り散らすのと同時に、デルフリンガーの刀身が目も眩む眩さで輝いた。 たちどころに刀身を覆っていた錆は消え、零れていた刃も欠損を埋めて、瞬く間にデルフリンガーはボロだらけのナマクラ刀から、剣匠の込めた魂の気迫が匂い立つ見事な剣へと変わっていた。 「ああ、そうだ、おれを振るえ、相棒!! このおれが認めてやる、お前さんはハルケギニア六千年の歴史で最強の剣士だ!!」 デルフリンガーの変身の中も目を閉じなかったDは、デルフリンガーの興奮した声を気にも留めず幻十へと目掛けて、右足が地を踏むのと同時に更に飛翔。 低空すれすれを這うように飛ぶ蝙蝠の様な影を月光に落としながら、ついには幻十の姿をその刃圏に収めた。振り下ろし切れば幻十の体を斜めに両断する構えは右下段、切っ先は後方に流れている。 幻十が大きく右手を振るう。万軍に命令を下す覇王の如く。 Dが右手を振るう。巨人の首さえも落とす神話の英雄の如く。 不可視の螺旋衝角――ドリルを形作った無数の魔糸の先端と、真の姿を取り戻したデルフリンガーの刀身とが激突した。 幻十の頭頂まで残り五十サントの位置で鮮やかに煌めく無数の銀粉。天空に輝く淡紅と白みを帯びた青い月光を受けて銀色から変わる光の燐粉は、デルフリンガーの刃に切り裂かれる魔糸の残滓の姿であった。 放たれたDの一刀にどれほどの力と技が込められていたものか、更なる魔糸の一撃を放つ余裕は幻十にはなく、デルフリンガーの刃に徐々に切り込まれる螺旋衝角の維持で手一杯であった。 ぎり、と奥歯を噛み鳴らし、幻十の美貌に初めて余裕以外のモノが翳を過ぎった。 デルフリンガーが魔糸を切り裂くかと思われた瞬間、螺旋が弾けた。さながらホウセンカの果実の様に。 常人には何もないと見える目の前の空間に、無数の糸が乱舞している様が見て取れるDは、デルフリンガーの刀身を縦に構えて自分に迫る魔糸のことごとくを弾く。 睨みつけた獲物を逃さぬ鷹の眼は、幻十の姿が前方上方六メイルの位置にあると認めた。互いに決め手を欠いたまま、今一度、飽く事無く二人の間で透き通った殺意が交差した。 天と地とに分かれて争う美影身を、タバサはただ呆然と見つめていた。 美しいからか? 然り。 恐ろしいからか? 然り。 辺り一帯を埋め尽くす二人の鬼気よ、殺気よ。それは尋常ならざる魔界の地に足を踏み入れたのかと錯覚するほどに濃密で、空を握った掌の内側に結晶の形となってしまいそうだ。 Dと幻十、あの二人で生死を賭けて戦い始めたその瞬間から、ここはただの人間が居てはならぬ異世界へと変わり果てていた。 息を忘れて、漆黒の魔人二人の戦いをタバサは瞳に映し続ける。 天空には双子月と浪蘭幻十。 大地には彼方まで広がる悠久の大地とD。 二組を繋ぐのは夜の世界を渡ってきた風と月光。 二人の戦いは、どちらの方がより美しいかという答えを出す為のものであったかもしれない。 六メイルの高みからDを見下ろしていた幻十が、何度目か必殺の意を万と込めた一撃を放った。Dの頭頂から両断すべく振り下ろされた魔糸。全長は一リーグ≒一キロを越す。 十分な余裕を持って回避できる筈の魔糸を見ていたDの瞳の中で、一条の煌めきは、たちまち一千の閃光と変わった。 千分の一ミクロンの魔糸千本を縒り集めた一ミクロンの魔糸を、敵の頭上で解き、たちまち一筋の斬撃を千の斬撃へと変える。 たった一本を回避する事から、千本にも及ぶ魔糸の斬撃の回避へと行動を変える事は、もはや不可能なタイミングであったろう。幻十の唇がひどく残酷な形に吊り上がる。 目の前で数千の肉塊へと変わる強敵の様を思い描き、サディスティックな愉悦に胸の内をどす黒く焦がそうとしているのだ。 成す術なくDが微塵に斬り裂かれるかと、彼の魂を連れ去るべく待っていた冥府の使い達が目を見開いたその時、動いたのはDの左手であった。降り注いだ魔糸の雨を防いだ時同様に、Dの左手に宿る老人が、死の運命の扉を塞ぐ鍵となったのだ。 左手を掲げるのと同時に老人の声はこう流れた。 「風だけじゃが、なんとかするしかないか」 開かれたDの左手の掌に浮かんだ老人が、再び抜け落ちた歯の目立つ口を、大きく開いた時、その喉の深奥でちろちろと燃える青白い炎があった。Dの左手に宿る老人は、世界を構成する四元素『火』『土』『風』『水』を食らう事で、膨大なエネルギーを生み出す生産プラントでもある。 幻十の放った魔糸を吸い込む時に吸引した風を元にしてエネルギーを生み出し、左手の老人は喉の奥から、青白い炎を一気に噴き出した。 それがどれほどの熱量と勢いを持っていたものか、襲い来る魔糸はすべて蒸発し、炎が舐めた大地はガラス状に解けた断面を晒しているではないか。 幻十が目の前まで迫った炎の舌に、かすかに目を細めたその瞬間、背筋を貫く鬼気の放射に愕然と炎の中から姿を見せた黒影に目を見張った。 自らの左手が生み出した炎の灼熱地獄の中を、右手に握るデルフリンガーで切り裂き、飛翔したD! 紅蓮の海を挟み対峙する両者の間を、白銀の弧月が繋いだ。 デルフリンガーの切っ先を真横へと向けたまま、Dは音もなく地面に着地した。すっくと立ち上がった時には、すでに戦闘の気配を納めている。 幻十の左頸部を狙った一撃が、肌に触れるその寸前、幻十の姿はDの目の前から消えていた。どこか遠くに巻きつけた魔糸を利用して幻十は退いたのだ。 それがどれほどの速度であったものか、発生した突風に千切られた風がはらはらとDの周囲に舞落ち、残っていた炎に燃やされて灰に変わる。実に、幻十が逃亡に用いた魔糸は、彼の体を音速を超えて運んだのである。 左手がやれやれ、と骨の髄まで疲労を溜め込んだ声を出した。 「なんなんじゃ、この世界は? あのメフィストとか言う医師だけでなく、幻十とか抜かすあ奴も大概バケモノときおった。 しかも、戦い始めた時から常に成長しておったぞ? 下手をすれば無限に成長するかもしれん。 ここで首を落とせなんだ事を後で悔やむ様な事にならなければ良いが、それも自業自得というものなのかの。お前があのチビのお嬢ちゃんを庇うとはな。構わなければ止めは刺せずとも深手くらいは負わせられたものを」 Dが真横の突きだしていたデルフリンガーを下げた。Dの一刀を浴びる寸前、幻十がタバサめがけて放った魔糸を防いだデルフリンガーを。 変貌したデルフリンガーの事は露ほども気にする様子はなく、Dは右手に刃を提げたままタバサへと歩み寄った。 タバサは自分に歩み寄るDの姿に、死を覚悟した。いわば自分はDを罠へと誘いだしたのだ。目の前の青年が、そんな相手を許す様な性根の主とは見えない。 両手で握りしめた杖が大きく震えるのを感じながら、タバサは目の前で足を止めたDの顔に見入った。 Dは冷たくタバサを見下ろしている。右手が動いた。デルフリンガーの刃が風を薙いだ。無造作に、草でも刈る様に。そうやって、タバサの首も刈るのだろう。 弁明も言い訳も何も意味を成さないと悟ったタバサは、静かに目を閉じて息を飲んだ。自分と家族の人生を狂わせた男への復讐を果たせず、母の心を取り戻せずに終わる事だけが心残りだった。 シルフィードは泣いてくれるだろう。きっとわんわん泣くに違いない。キュルケやルイズも、自分が死んだら涙を流してくれそうだ。ルイズは自分を斬り殺したDの事を責めるだろう。 本当なら、こんな所では死ねないと、終わるわけには行かないと、地べたを這ってでも生きようと足掻かなければならない。なのに、どうしてもそんな気力が湧いては来なかった。 思ってしまったのだ。目の前に黒衣の青年が立った時に、このまま殺されてもいいと。この美しい青年に、殺されてしまいたいと。自己破滅願望とこの世ならぬ美への恍惚が入り混じった極めて危険な心理に、タバサは陥っていた。 Dの手が振られた。タバサは、自らの体を両断する冷たい感触が流れるのを待った。 「……?」 しかし、待てども訪れぬ感触に、訝しげにタバサが目を開いた時、Dはデルフリンガーを握ったまま人差し指と親指で何かを摘まむような動作をしていた。 訳が分からずDの指を見つめるタバサに、Dが口を開いた。 「目には見えんが、糸がある。あの幻十という男のものだ。これが君の体に巻き付き、あらゆる情報を奴に伝えていたのだ」 「糸?」 「今は斬ったから何を話しても問題はないがな」 Dの告げた幻十の武器の正体に、愕然と眼を見開いてタバサはDの指先を見つめた。目を凝らして凝らしても、何も見えない。 ただ、時折降り注ぐ月光を反射して何かが煌めくのが見えた。それが、Dの言う糸なのだろう。Dはデルフリンガーで斬った魔糸を、左手の口の中にしまい込んだ。 タバサの体に巻きつけられた魔糸は、糸そのものを震わせる振動からその場で行われている会話、巻きついた対象の体温や血流、体内の電気信号などから感情、精神状態までを光の速さで幻十の指に伝えていたのだ。これまでタバサの会話や心は全て幻十の手の内に把握されていたと言っていい。 「知っている相手の様だな。何者だ?」 タバサが身を強張らせた。Dの声は質問に答える以外の言葉を許さぬ冷厳な響きであった。 「彼は、ガリア王ジョゼフの使い魔として呼び出された青年。けど、契約は結んでいない」 「続けろ」 「ジョゼフは、彼に何の命令も下していない、ただ彼の好きにさせているだけ。私は彼に従うように命令を受けた。だから、貴方を呼んだ。彼は貴方に興味がある様だったから」 「また命令が来れば同じ事をするか?」 「……しなければならない理由が、私にはある」 「そうか」 タバサは杖を握る手に力を込めた。つい先ほどまで生を諦めきっていたが、仇敵に従う振りをしてまで果たそうとしている事を思い出し、わずかでも可能性があるならそれに全霊を賭けようという気概が蘇っていた。 もしDが自分を殺そうとするのならば、わずかなりとも抵抗してみせる。 瞳に強い光を取り戻したタバサを見て、Dは何を思ったか、無言で踵を返した。その背に、タバサが声をかけた。 「待って、貴方に頼みがある」 Dが立ち止まってタバサの言葉の続きを待った。かすかな逡巡の後に、タバサが意を決して、言葉を続ける。 「彼を、ロウランゲントを斃して欲しい。貴方なら彼を斃せる。いいえ、貴方にしか斃せない。彼は明言はしていなけれどおそらくジョゼフの味方をする。 私は、どうしてもガリア王ジョゼフを斃さなければならない。私の前にロウランゲントが立ち塞がると思う。もし、ガリア花壇騎士団が全員私の味方になってくれても彼には勝てない。それに、彼はたぶんこの世界に来てはいけなかった人。ゲントの存在は、この大陸にとても良くない事を巻き起こすと思えて仕方が無い」 「おれは殺し屋ではない。吸血鬼ハンターだ」 再び歩み去ろうとするDに、慌ててタバサが声をかけた。浪蘭幻十と対抗しうるおそらく唯一の男を、味方にする千載一遇のチャンスだ。逃すわけには行くまい。 「なら、ゲントと彼の連れている吸血鬼を始末して」 「吸血鬼を従えているのか?」 足を止めて聞き返してきたDの様子に、タバサが安堵の吐息をひとつ吐いた。少なくとも興味を引く事は出来たようだ。しかし、吸血鬼ハンターとは、文字通り吸血鬼を狩る者の事だろうが、ハルケギニアではそう言った者は聞いた事が無い。 目の前の青年がはるか遠方から、それこそハルケギニアの名が伝わっていないほど遠いどこかから呼ばれたのだという噂が、タバサの脳裏に蘇った。だが、今はDの素性を確かめようとするよりもするべき事があった。 「私に払う事の出来る報酬は多いとは言えない。けれど、私が支払えるものであったなら、何でも払う。この体でも命でも構わない。 だから、お願いします。どうか、この世界の為にロウランゲントを斃してください」 深く腰を曲げて頭を下げるタバサを一瞥し、Dは無言のまま背を向けて学院へと歩き始めた。タバサの懇願も、誠実な態度も、まるで知らぬという様に。 顔を上げて離れ行くDの背を見つめていたタバサは、ひたむきな瞳を向けていた。 「どうして、私に何もしないの?」 タバサにとっては、その答えを得られぬ事が、Dの刃の露と消えるよりも辛かったかもしれない。 タバサは、Dの姿が消えるまで、そこに立ち続けた。世界のすべてから忘れ去られたような、ひとりぼっちのまま。 なお、Dの背に戻されたデルフリンガーが、 「相棒、おれが変わった事、気にしないの? ねえ?」 と寂しげに呟いたが、むろん黙殺された。 ルイズの部屋に戻ったDは、なにやら神妙な顔をしてこちらを見つめるルイズと、なぜか部屋に居るギーシュを見た。こんな夜遅くに女の部屋に男の姿がある。争った形跡もないという事は 「ませとるなあ、しかし、よりによって引っ張り込んだのがこいつか。お嬢ちゃん、もうちっと男を見る目を養った方が」 「違うわ。D」 いつもなら簡単にDの左手の挑発に引っかかるはずのルイズが、冷えた声を出した。いつもとはだいぶ違う様子に、左手もふむん? という声を出す。 ギーシュの方も口に薔薇を加えた気障なポーズはともかく、顔つきにはふざけた様子もおどけた調子もない。ルイズ同様に真摯な瞳でDの顔を見つめている。 どんな鈍感な人間でも、これは何かあると分かる二人の様子だ。 ルイズはDの目の前まで歩き、使い魔の顔を見上げた。正面から、逃げる事も恥じる事も何もないと、堂々と胸を張って、主人らしく。 「D、私アルビオンに行く事になったの。明日の朝、出立するわ」 「理由を聞こう」 Dに対して、ルイズは静かに事情を話し始めた。Dが浪蘭幻十と死闘を繰り広げていた時、ルイズはトリステイン王女アンリエッタの訪問を受けていた。 頭巾を取り、素顔を晒したアンリエッタは、膝を突くルイズの手を取って懐かしい友との再会を喜んだ。ルイズは、幼少の頃にアンリエッタの遊び相手を務めていたのだ。 お転婆娘だった小さな頃を懐かしみ、その頃の自由に思いを馳せている間は良かった。Dも特に反応を見せる様子はない。それで終わったなら、そもそもルイズはこんな神妙な顔はしないだろうし、ギーシュが部屋に居る理由も分からない。 雲行きが怪しくなり出したのは、アンリエッタがこのたびゲルマニア皇帝に嫁ぐことになった下りからである。 別段王室同士の婚姻など珍しい話ではない。アンリエッタにもトリステイン王家のみならずアルビオン王家の血が流れている。 では何が問題かと言うと、それはアルビオン王国の政治情勢に一因があった。Dも、下僕というか小間使いにしたフーケから話を聞き、かの浮遊大陸のきな臭い情勢については風聞程度で知っている。 アルビオンの貴族達がどこぞの司教を旗印にして王家に対して反旗を翻し、いまや王家は追い詰められ、始祖ブリミルが授けた三王権のひとつが倒れるのも時間の問題だというのだ。 トリステインは始祖ブリミルの子の血を引く由緒正しい王家であったが、国力で言えば小国と言われても反論できない。 平民といえども領地を購入すれば貴族となる事も出来、国力を増大させたゲルマニアやハルケギニア一の大国であるガリア、宗教的な理由から神聖不可侵な血であるロマリアと違い、トリステインは歴史の古さ位しか取り柄が無いのである。 さて、そこでトリステインとゲルマニアが、いずれアルビオン王家を打倒した反乱軍が、両国いずれかに矛先を向けると考えたのは至極当然であったし、対抗するために同盟関係を結ぼうとするのも自明の理だ。 その為にトリステイン王家の一粒種であるアンリエッタが、親子ほども年の離れたゲルマニア皇帝に嫁ぐのは、両国の関係強化にこれ以上ない方法だったろう。 アンリエッタも望まぬ恋ではあっても、王家に生まれ者の宿命とそこは諦めと共に受け入れてはいる。ここで、いよいよ大問題に差し掛かった。 ルイズが淡々と事実を述べる様に口を開いた。極力私情を交えぬようにと配慮しているらしい。 なんでもアンリエッタとゲルマニア皇帝との婚姻を妨げる材料が存在しているというのだ。よりにもよって戦乱のアルビオン王国に、よりにもよって渦中にあるウェールズ皇太子の手元に、である。 「なにが、王女と皇帝の婚姻を妨げる材料になるのだ?」 「姫様がいぜんしたためたという一通の手紙よ。内容はお教えくださらなかったけど、それが明らかになればゲルマニアの皇室は決してアンリエッタ姫を許さず、婚姻も反故にされるそうよ」 「たった一通の手紙でか?」 「……ええ」 その事を語る時のアンリエッタの様子は、ルイズに手紙の内容を容易に想像させたが、それをDには語らなかった。 「アルビオン王国が反乱軍の汚らわしい手で潰えてしまうのは悔しいけれどもう決定的。であれば来る反乱軍との戦いとの時に、トリステイン一国で相手をするのは……絶望的なのよ」 「では、王女の頼み事は」 いつもより冷たく見えるDの眼差しに、体の内側から冷やされる思いで、ルイズはわずかに息を飲んだ。それでも、一度だけ目を瞑ってから答えた。 「戦乱の只中にあるアルビオンから、その手紙を取り返す事よ」 ルイズはその時のアンリエッタとのやり取りを思い出した。 ルイズの目の前でそれまでの友との再会を喜んでいたアンリエッタが、たちまち顔色を蒼ざめさせて、狼狽しだしたのだ。ルイズはその変化に戸惑いながらもアンリエッタを宥めてその先を促した。 ウェールズ皇太子の元にあるという手紙と、その事を告げた時のアンリエッタの様子から、何を求められているのかは薄々分かっていたが、アンリエッタの口から直接聞きたかった。 「では、姫様、私に頼みたい事とは?」 「無理よ! 無理よルイズ! わたくしったらなんてことでしょう! 混乱しているんでしょう! 考えてみれば貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険な事、頼めるわけがありませんわ!」 弱々しく首を左右に振り、自分の浅慮を悔いるアンリエッタ。だが、その様子をルイズは不意に遠いモノの様に見ている自分に気づいた。つい先ほどまではアンリエッタ同様に大仰に喜び、芝居がかった言葉を交わしあっていたのに。 ふと脳裏に、今は部屋に居ない――ようやく気付いた――使いの間の姿が過ぎった。彼の影響だろうか? ルイズはそっとアンリエッタの手を両手で包みこんだ。アンリエッタが不意に顔を上げ、涙の粒を眼の端に浮かべた瞳に、慈愛に満ちた顔を浮かべるルイズの顔を見上げた。 ついさっきまで同じ過去を共有する懐かしいおともだちだったのに、今はアンリエッタの知らないルイズがそこにいた。 妹を慈しむ姉の様な、娘を想う母の様なそのルイズの姿に、アンリエッタは身惚れた。 「姫様」 「ルイズ?」 「わたくしは、わたくしをおともだちと言ってくださったことがとてもうれしゅうございました。このルイズ、姫様のおともだちとして、そして家臣としても、貴女様の僕であり、理解者でございます」 「ルイズ、ルイズ・フランソワーズ、貴女はわたくしの知らない間に、こんな立派な貴族になっていたのですね」 感極まって涙ぐむアンリエッタの目元をそっと、取り出したハンカチでぬぐってから、ルイズは膝をつき再び臣下の礼を取った。 「ルイズ?」 「ですが、唯一のわがままをお許しください。姫様、姫様はおともだちとして私にお願いしてくださいました。ですが、どうか、主君としてもご命じくださいませ。私に、命を賭して命を果たせと」 「ルイズ、どうしてそのような事を」 「姫様がご存じかは存じ上げませんが、わたくしはゼロのルイズと呼ばれております。満足に魔法を使えぬ未熟者という意味でございます。そんなわたくしが姫様の命を果たすには身命を賭す以外にありませぬ。 どうかおともだちの為に戦うという事以外にも、このわたくしに勇気を振るい起こすお言葉をお授け下さいませ。おともだちの為に、主君の為にと、勇を振るい起こすお言葉を」 「ああ、ルイズ、わたくしは貴女になんて事を頼んでしまったのでしょう」 かすかに肩を震わせるルイズの様に、アンリエッタは我に返ったように慄いた。ルイズが今、アンリエッタの願った事を果たす為に命を賭ける覚悟を決めている。そして、恐怖を必死に押し殺そうとしている事も分かった。 自分はルイズに死ねと言っているようなものなのではないか? アンリエッタは初めて他人の気持ちを慮るという事を考えていた。 では、自分がおともだちと呼んで泣き付き、頼りにしたこの少女になんというべきか。聞かなかった事にして欲しいと告げ、今宵の出来事を自分もまた忘れるべきか。 それでもルイズの願いどおりにおともだちとして、そして王家の姫君として戦の只中にアルビオンに赴き、手紙を取り戻して来いと、命を賭けて果たせと命じるべきか。 自分の言葉で目の前の少女の運命が変わると、アンリエッタは初めて感じる恐怖に震えた。 「おお、おお、わたくしはなんと浅はかだったのでしょう。懐かしいおともだちであった貴女が、この学院に在籍していると知った時は始祖ブリミルが哀れな私をお見捨てにならなかったなどと思いあがり、貴女を死地に赴かせる事を口にするなど」 打ちひしがれたようにベッドに倒れて手をつくアンリエッタの言葉をルイズはただ待った。アンリエッタの心が決まるのを待った。 震えるアンリエッタの肩が、ようやくおさまった頃、流した涙をそのままにアンリエッタが毅然と顔を挙げた。 少なくとも先程までルイズに泣き崩れていた弱々しい少女の顔ではなかった。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール、貴女に命じます。アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子よりわたくしがしたためた手紙を取り返してくるのです」 「はい、杖に賭けて」 ルイズもまた凛とした声で答える。人の上に立つという事の責務をようやく実感し出したアンリエッタとルイズだけの部屋に、ノックの音がしたのはちょうどその時であった。 「誰!?」 「失礼する」 ルイズの誰何の声に応える間もなく声の主は静かに扉を開いて入ってきた。フリル付きのシャツに鮮やかな色のスラックス、胸のポケットには薔薇の造花を模した杖が一輪。 ギーシュである。何を聞きとったのかはたまた単なる偶然か、ルイズとアンリエッタの会話を耳にしていたらしい。扉に鍵を賭けていなかったので容易く入ってきたギーシュはそのままアンリエッタに向けて膝を着いて首を垂れた。 「姫殿下、盗賊の如く様子を伺うという下劣な真似をいたしましたご無礼は、どうか、このギーシュ・ド・グラモンがミス・ヴァリエールと共に任務を果たす事でお許しくださいますよう、お願い申しあげます」 「グラモン? あのグラモン元帥のご子息かしら?」 「四男でございます」 涙の跡を拭いたアンリエッタが、やや赤くなった目元をきょとんとして、小首を傾げながらきょとんとした顔で聞き返した。なんともはや、抱きしめて頬に接吻したくなるように可愛らしい。 ギーシュはかすかに頬を赤らめながら、立ちあがって恭しく一礼した。 「ありがとう、あなたも私の力になってくださるというのですね。でも、とても危険な任務なのです。ルイズにも申しましたが、命を失うかもしれないのです」 「姫殿下、わたくしは武門の子です。物心ついた時には、こう教えられ育ちました。命を惜しむな、名を惜しめ。決して表に出るような任務ではないと存じております。 ですが、トリステインの可憐な花たる姫殿下のお心に一時でも私の名を覚えていただければ、それはなによりの名誉なのでございます。父にも母にも兄にも伝える事は出来ずとも、わたしはグラモン家の家訓を守る事が出来るのです」 「ルイズ」 「姫様の御心のままに、お決めくださいまし。ギーシュ、いえミスタ・グラモンにこの任務を任せるか否かは」 「今のわたくしにはその言葉が何よりも重いものなのですよ、ルイズ。……お父上は立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようですね。この愚かで身勝手な姫をお助け下さい、ギーシュさん」 アンリエッタはにっこりと微笑んだ。それは街道の脇を埋める民衆や、城のバルコニーから見下ろす民衆達に向けるいわば営業用のスマイルに近い。ただ決定的に異なるのは、そこに心からの申し訳なさと、それでも縋る他ないやるせなさが宿っている事か。 ギーシュは感動した様子でうっとりと首肯した。 モンモランシーはどうしたのよ? と内心でルイズは呆れていたが、まあ、ギーシュとは最近気心が知れてきたし、ドットメイジの割には優秀なのは分かっていたので、文句は言わずにおいた。 「ルイズ、ギーシュさん、旅は危険に満ちている事でしょう。おそらく反乱軍の手先たちがこのトリステインやゲルマニアに多く放たれている筈。あなたがたの目的を反乱軍が知ったならどんな手段を取ってでも妨害する事は明白。そんな任務に赴かせるわたくしを許してとは申しません。ですが、どうか生きて戻ってきてください、そしてその無事に、始祖への感謝を捧げさせてください」 そう言ってアンリエッタはルイズの机の上に在る羽根ペンと羊皮紙を使って手紙をしたためた。アルビオンの王党派とウェールズ皇太子への、ルイズ達の身分を証明する手紙であろう。 おそらく最後の一文までを綴ったアンリエッタが、羽根ペンを止めて苦悩する様子に、ルイズは自分の思う通りの内容であったのだろうと、アンリエッタの心中を想い胸を痛めた。 だから、耳に届いたアンリエッタの言葉は聞かなかった事にした。それはアンリエッタとウェールズの二人の間のささやかだが、なによりも輝いている秘密だ。それを他人が知ってはいけない気がした。 「始祖ブリミルよ……。この自分勝手な姫をお許しください。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるを得ないのです……。自分の気持ちに嘘を着く事は出来ないのです……」 熱に浮かされていたようなギーシュも、アンリエッタのひたむきなその横顔に身惚れたかの様に黙っていた。 アンリエッタは新たに加えた一文をじっと見つめていたが、やがて手紙を巻き、杖を振るうやどこかから封蝋が成され、花押が押される。ルイズはその手紙を神妙な気持ちで受け取った。 この手紙と自分達の行動に、これからのトリステインとゲルマニアの両国の命運がかかっているのだ。まさしく、ルイズの命を引き換えにしてでもなさねばならぬと、ルイズは心中の決意をより堅固なものにした。 「ウェールズ皇太子にお会いしたらこの手紙を渡して下さい。すぐに件の手紙を渡してくれるでしょう。それからこれを」 そういって、アンリエッタは右手の薬指にはめていた指輪と革袋をルイズに手渡した。透き通る様に美しい水を宝石にしたように美しい指輪であった。 「母君から頂いた『水のルビー』と私が都合を着ける事の出来たお金です。せめてもの贈り物です。お金が心配になったら売り払ってください。 この任務にはトリステインの未来が掛かっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなたがたを守りますように。 ルイズ、ちいさいころからのわたくしの一番のおともだち、貴方にこんな事を頼んでおいて、言えた義理ではないかもしれませんが、どうか生きて帰って下さい。貴女だけがわたくしの真実のおともだちなのですか。 そしてギーシュさん、宮廷では貴族とは名ばかりの権利と利益の亡者ばかり。この学院にきて、久しぶりに貴族らしい方とお会いできました。どうか、貴方のその気高さを持ったまま、立派な軍人になってください」 そう言って、アンリエッタは始祖に祈る様にして二人に手を組んだまま頭を垂らした。 以上が、ルイズがDに語った事の顛末であった。黙ってそれを聞いていたDの代わりに左手のしゃがれ声が口を開いた。 「お前ら二人とも死にに行く気か? 内乱真っただ中の外国に子供二人でか。命と精神力がいくらあっても足りんぞ。ずいぶん命が安いらしいの」 「D、確かにあなたにとってはそうかもしれないけれど、私は姫様のお願いを聞いたの。おともだちとして、そして家臣として。どうあろうとも私は任務を果たすわよ」 「任務を果たした所で、ゼロの汚名を返上する事はできんぞ」 若さの中に鋼の響きを交えたDの声であった。一切の嘘を許さないその声に、ルイズはかすかに声を震わせて答えた。 「分かっているわ。言ったでしょう? おともだちとして、家臣として、聞き入れたと。汚名を返上する為ではないの。そうでしょ、ギーシュ」 「……いや、実は、ぼくはちょっとそーいうのも、あるかなあ、と」 「ぬあんですってえ?」 般若も青褪めて逃げ出しそうな顔と声に変わったルイズの形相に、ギーシュはさっと顔色を青く変えた。本気で怒らせた父よりも怖い。 軍の元帥とあって威厳も迫力もたっぷりな父が怒ると、すぐそばに雷が落ちた様に恐怖に震えるのだが、今のルイズは氷の海に突き落とされたように背筋を震わせる恐怖の塊であった。 「いや、あのね、ぼくは四男坊だから家督を継ぐわけでもないし、かといって上の兄達に不幸があればいいなどとは思わないしね。 それにアルビオンの話が本当ならいずれ武勲に恵まれる機会もあるかもしれないけどさ、ほら、姫殿下にぼくの顔と名前を覚えていただくのは損な話じゃないだろう? それに、トリステインでもっとも美しい白百合か白薔薇の如き姫君の為に働ける事は、トリステインの男としてこの上ない名誉だよ。誉れだよ。誰かに口にする事は出来なくとも、生涯自分自身に誇れるからね」 「どいつもこいつも浮かれておるのう。なんじゃ、またわしらにケツを拭いてもらえると期待しておるのか? だとしたら甘い、甘いぞ。なんでそんな危険な真似に付き合わなければならんのだ。いくら使い魔でも限度はあるぞ」 「いいえ。D、今回ばかりは貴方を無理に連れていくとは言いません」 きっぱりと言い切るルイズに、ギーシュがおや? という顔をした。今、ルイズは何と言っただろうか。この中で最大戦力である使い魔を連れていく気はないと言わなかっただろうか? 「D、貴方には本当に良くしてもらっているわ。本当なら、貴方はわたしなんか気に掛ける暇なんてない人なのでしょう。それ位は私も分かるわ。そんな貴方を元の場所へ返すという約束を今も果たせていないけれど、せめて貴方に命の危険を負う様な真似をさせないくらいの事はさせて。フーケの時だってそうだったけれど、今回は比較にならない。 ここに姫様から頂いたお金と貴方から借りた黄金があるわ。節約していれば食べるのに困る事はないでしょう。私に無理に付き合わなくていいのよ、ね?」 「使い魔の契約はどうする?」 「契約が生きている間は新しい使い魔を召喚できないけれど、それだけの事よ。貴方が特に困る事はないはずよ。それに、もしこの任務の最中に私が死ねば、その契約も解けるはずよ」 ギーシュが、はっとした顔に変わった。そうだ、ルイズが死ねばDは使い魔の契約に縛られる事はない。 Dが特に使い魔としての扱いに不平不満を述べた事が無いから疑問に思わなかったが、むしろDにとってはルイズが死んだ方が都合がいいのではないだろうか。 Dを見つめるルイズとギーシュの前で、Dはルイズが机の上に置いた革袋を手に取った。Dが辺境のダラス金貨を溶かして作った黄金と、アンリエッタが用意した宝石や金貨の詰まった革袋だ。 ずしりと手の中に重みが伝わってくる。Dはそれをパウチの中にしまった。まさか、とギーシュが口を開きかけて止めた。誰よりもそう思っているのはルイズ自身だろう。ルイズは唇を固く閉ざしたまま、Dの姿を見ていた。 鳶色の瞳に揺れるのは不安か、恐怖か、口にした言葉への後悔か。それとも、別離への悲しみか。 踵を返し部屋の扉に手をかけたDに、ルイズが声をかけた。震えている。精一杯に押し隠して、それでも抑えきれない声。 「D、今までありがとう」 「達者でな」 それだけを告げて、Dは開いた部屋の扉を閉じた。 前ページ次ページゼロの魔王伝